第1章.Prologue


アーケード街の地下ゲームセンターから数人の子供が出て来る。
「やっぱいいよなぁ、あのシュミレーターゲームはッ!」
と12才くらいの野球帽を冠った男子が声を弾ませる。
「名前くらい覚えろよクイマ〜。バーチャロンだろバーチャロン!」
と長い茶髪の別の男子が、半ば呆れたように言う。
「タイウ、クイマは物覚え悪いんだからしゃ〜ないさ。な?ワイズ」
また別の、今度は黒髪のスポーツ狩りの男子が、小形ビデオカメラをクイマから受取つつ、蒼髪を後ろでポニーテールかチョンマゲのようにまとめたダテメガネの男子に語りかける。
「しょうが無いだろうけどサ、でも別のことになるとすごい記憶力になるよ、呆れるほど」
苦笑いをしながら隣のゼロと呼ばれている銀髪ロン毛の親友に流す。
「ゲームの名前を覚えてないのに、出てるキャラや機体、武器に関するとやったら詳しいよなクイマは」
感心と変に思う気持ちの顔で答える。
 ワイズ、ゼロ、クイマ、タイウ、ウミのこの五人は同じ学校に通う電脳部(ようはゲーム部なのだが)の部長(クイマ)と部員(ゼロ、ウミ、タイウ、ワイズは副部長)で、友達でもある。今日はちょっとしたブームのゲーム<バーチャロン>を部費で研究(遊び)しにきていた。電脳部はゲームクリエイター関連志望の集まりで、こういうことも部費で堂々とできたりする。
「しっかしゼロはやたらと上手いよなぁ、俺らだけじゃなく年上の乱入者まで倒しちまうし」
小形カメラを巻き戻し再生にして、それを見つつウミは言う。
「歳は関係無いだろぉ、勝負の結果は相手より上手いか下手か...だろ?慣れだっているだろうし。第一みんなだって年上に勝ってただろぉが」
いたって普通に答える。 「ちげぇねぇちげぇねぇ。しっかしクイマよ〜言い出しっぺの君がやらんて、これどうゆこと?」
ウミが操る小形カメラをちょこちょこ横から見ながらタイウが言う。
「俺は機体の動きを見れればいいの。だから君らにゲーセン同行をたのんだんだよ。じゃなければ平日に堂々とゲーセンでゲームなんかできないことをお忘れなく」
「へへ〜。部長どのー」
とウミとクイマがふざけて頭をさげる。平日のしかも通常から学校の時間に、部費でゲームできる理由、それはクイマが顧問にたのんだからである。普通こういうこと(普通には無いと思うが)には顧問がついてくる筈なんだが、風邪で倒れたらしい。余程酷かったらしく、クイマが電話した時に
「あなた達で行って来て」
と言うと電話を切ったとか。
「にしたってゼロ強すぎ!俺なんて20回やって1回しか勝ってねぇ...ワイズだって10対1だし」
とタイウ 。

いくらなんでもやりすぎ

「ハハハ、まぁ俺下手だしネ」
と答えるワイズ。
「なのか?お前ホントわけわからんよな、俺に7回中2回しか勝ててないしな」

だからやりすぎ

「の割には俺との戦闘かなりキワドかったよなぁ、あと1、2撃ってとこだったなぁ」
とゼロ。
「んでレーザーで焼死体」
とまたタイウ。
「...下手なんだよ」
へこみつつ反論するワイズ。
「俺相手時にいたっては無謀に接近して」
クイマまで加わる。
「トンファーで撲殺」
「.....(空を見てるワイズ)」
「で、でも遠距離戦で勝ってたじゃん!な?な?」
ウミのフォロー、しかし
「ウミは対戦してないやん」
「.......」
のワイズとウミ。
「まぁいいデータ取れたんだし!オーケーにしとこうぜ」
とクイマが空気をかえる。
「あーはいはい」
「だな」
「うん」
「...うい」
 こんなことを言いつつアーケード街を抜けてビルの立ち並ぶ道にでた。
「な、メシ食ってかねぇ?」
お腹を摩りつつタイウが言う。
「賛成、代金は部費からってことで」
悪びた笑顔のクイマ。
「いったいいくらわたされてるんだい?」
冷や汗を流しつつ聞くウミ。
「聞かされた額は3万と聞いたが?」
普通に返すゼロ。
「ファミレスでも余る額だな、寿司でも...」
急に黙るワイズ。
「どぉした?」
ゼロが気になってワイズに顔を向ける。
「変な...音しない?」
空に顔をあおいで言うワイズ。
「音ぉ?」
ワイズ以外の全員が聞き返す。
 次の瞬間、頭上を輸送機とミサイルが通り過ぎる。
「な...?」
郵送機にミサイルが着弾、ワイズ達からそう遠くない距離に落ちる。
「あれは軍のだな」
言い切るクイマ。
「なんだって軍の輸送機が!?しかもこんな低空で?!」
流石に混乱したのか焦りつつ吐き捨てるように喋るタイウ。
「あのミサイルどっかで...」
考えこむウミ。
「はなれた方がいいな、ここから」
冷静に言うゼロ
「あれ...?テ、テムジンか?」
ワイズが何気なく輸送機を見た時、貨物が見えた。それはVR、<テムジン>だった。
「!」
ワイズが言った数秒後にクイマが走りだした。
「クイマ!?なんで?ってタイウとウミまで!」
ワイズは凄く焦って言う。
「本物ならこの上無い参考になる!」
いつウミから取り戻したのか、その手には小形カメラがしっかり持たれていた。
「本物なんてめったに見れないんだぜ?見ないでどうるよ!?」
こっちを見ずに猛ダッシュで走るタイウ。
「二人を止めます!ワイズ君とゼロさんは速く避難を!」
避難する人達を避け、二人のもとへ向かうウミ。
「待て!うかつに動くんじゃない!打った奴がいるかもしれないんだぞ!」
必死に叫ぶゼロ。
「べ...ベルグドル!?」
消え入る声で、逃げ惑う街の人達がそびえ立つVRの名を言った。ビルとビルの間の道路にその巨大な影はあった。<ベルグドル>支援攻撃VR。そいつは右手に携えたグレネードを輸送機に向けて構えていた
「みんな戻れ!」
バシュッ、バシュッ、バシュッ
3発、ワイズが叫んだ直後にグレネードは放たれた。輸送機はグレネード迎撃の為、機銃を乱射した機銃の弾はグレネード一発を撃墜、残り二発は輸送機の貨物ハッチと機銃本体にそれぞれ命中した 問題は撃墜されたグレネードだった。
ゴォォォン!
見えていた友達の姿は煙に消えた。そして煙が晴れ視界と視力が戻ると、痛烈な情景が目に映る瓦礫、ただそれだけ。逃げていた人々、友達の姿は無く見分けのつかない死体や負傷者が瓦礫に埋もれていた。
「う、嘘だろ?クイマ!タイウ!ウミ!」
煙に消えた友の名を叫んでも返事はなく、ワイズは肩を落とす。
「ワイズしっかりしろ!奴また打つ気だ!」
ワイズに言葉かけつつもベルグドルにも気を払うゼロ ベルグドルはゆっくりと両肩のホーミングミサイルの発射体勢に入っていた。ホーミングミサイルは先程のグレネードより確実に威力が上である。
バシュルルル
ドンッ
「なっ!?」
ベルグドルが打つのと同時に、ゼロはワイズを力一杯に横の細道に押し込んだ。
  ドガアアアン
ベルグドルのホーミングミサイルが輸送機の貨物ハッチを完全に破壊する。そしてその爆風がゼロをワイズの目から消していく。その時ゼロは笑っていた。すぐに爆風は晴れて、ワイズは細道からいそいで出る。しかし、そこにゼロの姿はなかった。
「ゼ、ゼロ!!」
涙は出なかった。それよりも怒りがワイズを包んでいた。
「よくも、よくもみんなを!」
怒りの瞳でベルグドルを睨む。
「(絶対に...絶対にゆるさぬぇ!)」
そしてテムジンが目に入る。ワイズは走った、壊れた道をVRに乗るためのいろいろな問題など頭に無い。怒りがそうさせていたから。
「(たとえ俺が俺でなくなっても...それでも奴を倒せるなら!)」
彼の前髪に隠れた右目の色が揺らいだ。
ベルグドルは何故か止まっていた、まるでワイズがテムジンに乗るのを待つように...


第1章プロローグ 終