第9話 「精神の爆発」 後編



「まさかカメラのモード変換タイムラグを利用するとは...」
今度はカオスの顔がモニター左下に小さく映っている
「さらに自機がステルスを起動させている時、攻撃力が著しく低下するのを計算して、攻撃役をアウト・サイダーに任せるとはね」
「長々と...説明はどうでもいい!諦めてタイウを解放しろ!」
と勝ち誇ったようにゼロが言う
「それがねぇ...出来ないんですよ」
笑まじりで答えるカオス
そのセリフをトリガーにしたようにアファームドがアウト・サイダーに突撃をかける
「くッ...タイウやめてくれ!」
アファームドの攻撃をCBRで捌きながら早い勢いで後退していくアウト・サイダー
「チッ!」
素早くスペトライルを駆り、横からアファームドにショルダーチャージを当てるゼロ
基地の防壁に突っ込み倒れるアファームド
「ならまた仕掛けて、今度は右腕をいただく!機体的欠陥だ...そっちに策すらあるまい!」
アウト・サイダーの前に立ち、言う
「たしかに改善する策は無いですね」
「行くぞワ...」
「ですが、無駄ですよ」
「なんだと!」
「首尾よくアファームドの武装、運動能力を奪ったとしましょう、そこまでです」
「何がそこまでだ?」
ゼロのスティックを握る手に力が入る
「あとはコック・ピットから助け出せば...」
ワイズが言いかけると
「死にますよ?」
カオスがそう言うとあたり一面の空気が一瞬凍りつく
「な...んだと?」
ゼロがモニター内のカオスを睨めつける
「タイウ君をコック・ピットから出すと言うことは、彼の生命維持装置の停止を意味しますからね」
ゆっくりと立ち上がるタイウの乗るアファームド
「そこまで...そこまでするのか...アンタは!」
怒りで震えるゼロ、その後で
「また...助けられないのか?また...」
ワイズの頭に爆風に消えた時の友達と町、そして少し前のシュミレータートラブルの時に見た同じようなシーンが頭でフラッシュバックされる
「タイウ!目を覚ましてくれよ!!」
悲壮にも声をかけるワイズ。彼の右目は金色になりかけていた


「(あと少しか...?)」
カオスがワイズの右目を見て、反応する


ワイズの声を受けてか、タイウの口元と目が僅かながら反応した
「!!」
それを見逃がさなかったのはゼロだった
「タイウが反応したぞ!」 「本当か!?」
「ああ!今、目が動いた!間違い無い!!」
「ならゼロも声を!!」
「解ってるさ!タイウ目覚ませ!」
「ミシェー先生も聞いてたでしょう?クイマも呼んでみんなで声を!」


「放送流して!クイマ君もくるようにと」
ミシェーが言うと
「もう...ゼィ...来て...ます...ゼィ..」
息を切らしたクイマが階段から顔を出していた
「早いわね?!...ルミナさんね?」
直感的にルミナが呼んだことを理解したミシェー先生
「罰なら受けます...後で」
笑顔で早く声をかけてあげてくださいとばかりに言う
「ありがとう」
ルミナに礼を言ってミシェーはクイマにインカムを渡す
「声をかけてあげましょう!タイウ君が戻れるように!」



「タイウ!」
「タイウよぉ!」
「タイウ君!」
「タイウ!!」

四人が声をかけると、直ぐタイウに反応が現れた
「ワい...ぜロ...せんセ...クいま...?」
奇跡としか言えなかった


「(なるほど...彼も精神の爆発ですか)」 カオスが通信を漏らさず笑う
「彼等は面白いですねぇ、本当に」



「ミんナ...か?」
意識がハッキリしたのか問い掛けてくるタイウ
「ああ、そうだ!ウミはいないが...な」
言っておいて焦るワイズ
「あいツは生きて...ルぜ」
「本当か!?ってあいつはって?」
ウミの情報に喜びつつも、タイウの言動に逸速くオカシさを感じるワイズ
「俺ハ...もう無理ダ...諦メろ...」
「何自分で諦めろって言ってんだよ!な、なあ!みんなからも何か言ってやれよ」
「そうだ!勝手に決めんなよ!対戦のドロー分の試合すると言っただろ!」
「タイウ君はまだ戻れるのよ!何を諦めるの!?」
「お前にはもっとアファームドのデータとってもらわにゃ!帰ってこいよ!」
みんなそれぞれに声をかける
「ははハ...みんな自己中だゾ...もうミんなには迷...惑かけタく無いしサ...だから」
しだいに言葉が直っていく
「どっちが自己中だよ!?帰ってこい!戻ってこいって!」
ワイズが叫びかける
「今日もいい天気だなぁ...ふぁ.....ねみぃなぁ」
あたりは真っ暗闇の夜
「!!...タイウまさか!」
嫌な予感が頭をよぎる
「次生まれてくるとしたら別の世界がいいかな...でもまた五人でつるみたいぜ...ついでに先生も一緒にさ」
ゆっくりとアファームドの右腕が動く。それと同時にタイウの左手が何かをする
「やめろ!やめるんだタイウ!!」
駆け出すアウト・サイダー
「なんで...こんな眠いのかなぁ...」
アウト・サイダーがアファームドのビーム・ライフルのような武器に触れる寸前にそれの刃がアファームドのコック・ピットを貫く

一瞬、今度は世界が凍りついたように、止まった

そして数秒もたたないうちにタイウが乗っていたアファームドが大爆発した
彼は自爆装置の設定までしていたのだった
その爆風に吹っ飛ばされたアウト・サイダーは、仰向けに倒れる


「なぜ...なぜ!」
口元を抑えて涙を流すミシェー先生
ガンッ
と壁を拳で叩く音
「俺達に...迷惑をかけまいと...?...ッ馬っ鹿野郎があああああ」
司令室の床に倒れこみ、号泣するクイマ


「...カオーーース!出てこい!!ブッ潰してやる!!!」
ゼロがコック・ピットの中でまた吠える。先程とは比べものにならない程の怒りで
「いいですよ、ですが」
森からタイウ機と同型のアファームドが10機現れる
「お相手は彼等で頼みますよ」
「なめるな!10機程度...俺一人で相手してやる」
身構えるスペトライル
「そうそう...彼等はタイウ機と同じですからね?」
タイウ機と同じ、それが意味するのは

<パイロットハカイゾウサレテイル>

「スペックも同じですからね」
「ぐ...」ゼロの額に汗がつたる
「(こいつら10機も同時に相手は...ましてや俺一人じゃ...)」
チラッとアウト・サイダーを見ると
「...浮いてる?...ワイズ!?」


「やっと発動しましたか...」
ギッと音をたててカオスが椅子から立つ
「ガイスト・バースト」
冷笑が暗闇に響く





「!!」
ベットから起き上がるワイズ
「また...病室...か」


「ワイズ候補生に意識が戻ったそうです、若干記憶に混乱がみられるそうですが」
正規のオペレーターがミシェー司令官に言う
「そう」
そっけ無く言うミシェー
「あの...」
少し間をあけ、言いにくそうに切り出すオペレーター
「何?」
またそっけなく返すミシェー
「さしでがましいですが...見に行ってあげないのですか?生徒さん...だったんですよね」
「...気づかいありがとう。でも...目の前の問題を解決しないからにはね...」
ミシェー司令官とオペレーターの女性がいる所は、3日前に戦闘があった場所だった


そこには、破壊された機体達の残骸が無造作に散乱していた


「今度は3日か...」
前にワイズが倒れて起きた時と同じ面々(+ゼロ)から、自分が3日眠っていたことを聞いた
「...」
無言で自分の手を見るワイズ
「どうしたの?ワイズ君」
サナシスが心配になり、声をかけてくれる
「あ、いや...まだ体調が悪くて」
手をふってごまかす
「そうなんですか?じゃあ部屋から出ておきます?」
ルミナが気遣ってくれる
「すまないけど...みんな頼めるかい?」
申し訳無い顔で言う
「そうだな...みんなそうしよう」
イースがみんなに言う
「なら私は看病の為に...」
と冬花が言うと
「...出るんだ」
とイースが普段見せない目で睨んで言う
「冗談ですわよ...じゃあワイズ君早く元気になってくださいね」
ニコッと笑うと部屋から出ていく冬花。その後ではサナシスが怒りの形相で冬花を睨み、ルミナが泣き顔でサナシスを静めている
「ハハハ...(大丈夫かなぁ)」
と手を振るワイズ
「じゃあ早く治せよ...かな?」
「ああ」
「それと...あんまし気にすんじゃないぜ」
と部屋をでるクイマ

ほんの少しの間

「...なぁワイズ...」
腕組して壁によっ掛かったゼロが話かけようとするが
「ゼロすまないが.....」
「...解った」
静かに部屋を出るゼロ
ゆっくりと空を見るワイズ。そして急に涙が流れる
「タイウを助けられず...10人も...殺した」
彼の記憶は混乱してはいなかった
「...クッソおおお!」
彼には自分の手がツインスティックを握っていただけなのに血まみれに見えた



3日前のあの時

「...浮いてる?...ワイズ!?」
ゼロが見るとアウト・サイダーは赤い光を纏い、宙に浮いていた。プロトタイプ・マインド・ブースターは全開で展開していて、Vディスクはいつもより早いのスピードでまわり、普段緑色に明滅している箇所も真紅に明滅している
「3〜9番機はアウト・サイダーを狙いなさい。2番機はスペトライルを、11番機は基地へ攻撃を」
カオスが指示を新に出す
「なに!?」
ゼロが驚きの声を出す
「ワイズ逃げ...」
ワイズに向けて通信をしようとするゼロよりアファームドは早く動いた
10機全機それぞれのターゲットに向かって飛ぶ...筈だった
赤いビーム・レイザーの刃が走り、アファームド3機を斬り裂き、地面で三つの爆発が起きる。決してアファームドが遅かった訳では無い、アウト・サイダーが機体限界以上の、過度の性能の動きをしたからだった。それは紛れもなく、敵アファームドをあらゆる面で凌駕していた。人が乗っていられないという所も
そのあと直ぐさま赤い光が宙に弧を舞い描き、新たに5機のアファームドが爆発する。その直後赤い光を纏ったアウト・サイダーが、爆風をバックに浮いていた
「な、なにが起きたんだ!?」
ゼロには赤い光が動いたようにしか見えなかったらしく把握できないでいる


「は、はは、ははははは!!素晴らしい...これがG・B(ガイスト・バースト)の力ですか!!」
暗闇の中、ただ一人狂喜するかのようによろこぶカオス
「さあ!もっとその力を見せてください」


基地に向かおうとするアファームド11番機に、左腕の軽量型サブマシンガンを左腕以外直立不動の姿勢で狙い、容赦なく当てる。普段とは考えられない程の威力を発揮した軽量型サブマシンガンは、アファームド11番機を粉々に砕き、成れ果てた残骸が防壁上に落下する
「ワ...ワイズがやってるのか?」
そう話すゼロの乗るスペトライルの後に最後のアファームドが立つ
それを見つけたアウト・サイダーは、スペトライルごと破壊するかのごとくのスピードでアファームド2番機に向かう。赤い光になって。
アウト・サイダーとスペトライルが接触するかと言う時、一瞬だがゼロにワイズから通信が入った。
「退け」
このたった一言。その時スペトライルのモニターに映ったワイズは、髪が逆立つように浮き上がり、普段あまり髪に隠れて見えない右目の色が深い緑から金色に変わっていた
「(やられる!)}」 明らかに普段と違う雰囲気に、恐ろしい程の寒気を感じて、思わずそう思ったゼロ
左腕でスペトライルを突き飛ばし、CBRをアファームド2番機に突き刺す。突き刺す瞬間、アファームドが怯えたように見えた。アファームドが突き刺さったCBRを空に向けると、スライド変形もさせていないにも関わらず、強烈な赤い光を放った。それによりアファームド2番機は二つに別れて爆発した


その後アウト・サイダーは機能を停止した



季節は冬、泣いているワイズの病室窓からは、雪が降り始めるのが見えた

>第9話 「精神の爆発」 後編 終