第8話 「二つの再開と」


[研究基地北側防衛線]


「それじゃあ俺がアウトから運び出された時よりも先に、ストラは自機からすでに出ていたんだな?」
ワイズがその日の基地警護休息寸前に通信でクイマに聞く

(アウトとは、ワイズ達がアウト・サイダーを呼ぶ時に使う名前)

「ああそうだ。ミシェー先生が緊急事態を発令してから、お前以外の訓練中パイロット全員が自機から降ろされたぜ」
あくびをしながら答えるクイマ
「俺以外?」
眉をひそめる
「お前はアウトのコックピットハッチが開かなくて降ろせなかったの」
またあくび
「原因は?」
「徹夜で究明の結果、詳しくは不明」
どうやらクイマは徹夜明けらしい
「判ったのは外部から何らかの操作があったことのみ」
さらに大きなあくびをする
「すまない、徹夜までさせてしまって」
ディスプレイに映るクイマに向かって頭を下げるワイズ
「別に気にすることじゃねぇよ。俺はアウトのメカニックチーフだしな」
ニカッと笑い返す
「しかしよ、なんでストラグルサンの事を気にしてるんだ?」
笑った目を今度は擦りながら聞く
「ちょっとな...(言っても信じて貰えるかどうか...)」
ワイズがシュミレーターで体験したあの戦いは、まだ誰にも語ってない
「まぁ言いたくなけりゃ言わなくてもいいがな。...わりぃ、流石に眠いから寝るな。じゃまた」
野球帽のツバを前に戻しながら通信を切る
「よっぽど眠かったんだな」
苦笑いしながら何も映っていないモニターに言う
「(...あの戦いはなんだったんだ?...たしかにストラの声を聞いた..)」}
そう考えこむと、またあの言葉とあの光景が浮かぶ

<死ね>
コックピットに銃口を突き付けられるアウト、そのアウトに乗っていた自分

「(確かに記憶に残っている...だが...)」
左手を見ながら拳を握り絞める
そしてコックピット内にアラートが鳴り、アウトのレーダーが何かを捕らえる
「VRの反応...?」
「ワイズ君〜、休憩時間だよ!上がったら〜」
「ワイズさん、休憩時間もったいないですよ」
不意にサナシスとルミナから通信が入り、その声達を聞いてレーダーから目を離すワイズ
「あ、ごめんごめん!先に休憩とってて」
焦りながら返す
「もうとってるけどね〜」
と軽く笑いながら通信を切るサナシス。どうやら彼女は既に、研究基地にて休んでいるようだ
「待っていますから、一緒に行きましょう」
と、まだの自機に乗っているらしいルミナ
「ありがとう。でもちょっと気になることがあるから。先行ってて」
笑顔でディスプレイに映ったルミナに言う
「解りました。ではお先にしますね」
と通信が切れる
「...」
レーダーを改めて見るワイズ
「さっきVRの反応があった筈...」
レーダーから目を離したのはほんの数秒、その間に目視しようとすればできた距離にあった反応が消えていた
「(見間違い?まだ本調子じゃないのか俺...)」
シュミレータートラブルから先日気をとりもどしたばかりのワイズが、まだ本調子で無いのは、それだけシュミレータートラブルが深刻なものだったからだ
「上がるか、アウト」
アウト・サイダーを研究基地に向けて歩かせた



VRハンガーに着いて、アウトから出るワイズ
「ワイズさ〜ん!」
と隣のハンガーから声が聞こえる
「ルミナさん!?先に休み行ってて良いって言ったのに」
仕方ないなぁと言う表情のワイズ
「エヘッ」
片目をつぶり、自分で頭をグーで軽く叩くルミナ
ガンッ
「イタッ!」
その直後ワイズの頭に空き缶が見事に直撃する
「遅ーい!!」
下からサナシスの声が聞こえる
「す、すいませんサナシスさん。でも缶を投げるのは勘弁...結構痛いから」
左目で泣きながら、缶の直撃した頭に手をあてて言う
「そ、それはルミナが悪いのよ!」
と腕を組みながら言う
「なっ、何でですか!?」
急に理不尽を言い渡されて、思わずキャットウォークから身を乗り出すルミナ
「なんでもよ!なんでも!」
右上に顔を上げて決してルミナを見ないサナシス
「(理由になってないってば.....ハァ...)」
その場にあぐらをかいて、顎を手で支えるワイズ


何時もは仲の良いルミナとサナシスだが、時折このような言い合いになることがある


.....ちなみにたいていワイズ絡み


「ここで話すより、食堂言って話しませんか?周りに迷惑かけますし」
さっきと変わらない態勢で言うワイズ
「そうですね」
「解った、じゃあ先に行ってる」
カツカツと歩く彼女からは、あたかも怒りのオーラが見えるようだった
「(後が恐いな...)」
嫌な汗が出る
「ワイズさん一緒に行きません?」
左を向いて、あぐらを組んでいるワイズに、聞くルミナ
「今一緒に行くと更にやばいと俺は思う...」
素直に意見を言うワイズ、彼の顔は青ざめていた
「優しいんですね、ワイズさん」
クスッと笑う
「そんなんじゃ、全然無いよ」
やはり青ざめたままの彼
「では先に行きますね。必ず来てくだいよ?」
勢い良く階段を降りる彼女はこころ無しか、うれしそうに見えた
二人を見送ったあとにワイズはゆっくりと立ち上がると
「ハァ...」
と大きなタメ息して、肩をガックリと落としながら食堂に向かうのだった



[アウトのレーダーが反応した地点]

「ステルスのお陰であのテムジンもどきはやりすごせたな...」
銀色長髪のワイズと歳の変わらない青年が、そんな事を言いながらステルス装置のスイッチを切る
森林の中に霧や靄が晴れるように一体のVRが現れる
「...奴らのデータライブラリを便りにここまで来たけど...本当にここにワイズ達がいるのか?」
彼の名はゼロ、あの日ワイズの目の前から爆風とともに消えた親友だった



[地下食堂]

「ええー!?」
「本当なんですか?」
「...」
(上からサナシス、ルミナ、ワイズの順)
ミシェーから伝えられた命令に声を出す二人と、声が出ない一人
「ルミナ、サナシスの両名は機体のオーバーホールの為、待機。よってワイズ一名のみが基地を警護せよ。だそうよ」
いやいやながら言うミシェー
「そんなの酷い!」
「ワイズさん昨日気がついたばかりなのに!」
と二人の少女
「...解りました」
と静かに言うワイズ
「ええ!?」 見事にはもるルミナとサナシス
「本当に御免なさいね...警護は基地敷地内でいいらしいから」
暗く言うミシェー
「おおかた命令したのは所長でしょう?あの人俺を目の仇にしてるし」
と言うと立ち上がり歩き出すワイズ
「先生が謝ることじゃないですよ。サナシスさんとルミナさんはこの際しっかり休んでおいてね」
言い終わると同時に食堂のドアが閉じた
「大丈夫かな...ワイズ君」
「大丈夫でしょうか...ワイズ君」
二人とも同時に心配の言葉を出す
「そんなに心配なら、二人とも」
二人の肩に手を置く
「はい?」
「何ですか?」
それぞれの返事
「仕事あげるからついてきなさい」
ニッコリと笑って
ガシッ
っと二人のえりをつかんだ
「...教官?私達ワイズ君に休めって言われてるんですけど...」
とサナシス
「問答無用」
笑顔のままのミシェー
「ルミナもなんか言いなさいよ!」
サナシスが騒ぐ
「諦めも必要ですよさナシスさん...」
と、言うルミナの目には輝く涙が 「納得いかないよーーー!」
ズルズルズル...
ミシェーに引きずられる二人だった



レーダーとモニターに目を懲らすアウト・サイダーの中のワイズ
「目が...痛い」
目を懲らしすぎて左目から少し涙が出る
「休憩から3時間...次の休憩まであと...4時間くらいか...はぁ」
大きく溜息をもらすと、両手をツインスティックから離して頭の後ろに回す
「何事も無く過ぎるといいけど...」
そう言った瞬間に通信が入る
「こちら司令塔、ワイズ候補生、気を抜かないように!」
と強いめのトーンで声か聞こえる
「わわわっ!?」
慌てるワイズだが、はたと気付く
「あれ?ルミナさん?」
聞き慣れた声の主に驚く
「オペレーターさんの体調不良により、緊急で任されました」
インカムを耳に付けた彼女は、小形モニターの中で笑顔をくれた
「良く許可してくれたね」
少し驚いた顔
「ミシェー教官が「人手が足りないから手伝って」と言ってくださったんですよ」
ミシェーの声真似を交ぜながら言う
「そうなんだ、じゃあ改めて宜しく頼むよルミナさん」
と笑顔で言うワイズ
「はいっ!こちらこそよろしくお願いします!」
とまた笑顔
「ちなみにサナシスさんは?」
「サナシスさんは...」
ルミナが言いかけたその時
ビシュン
ドガァッ
「ビーム音と爆発音!?」
瞬時に機体を音のした方向に向ける
「(あの方向は...さっき俺が...)」
音が聞こえた方向は、ワイズが何かの反応を見た方向だった
「じょ、冗談じゃ無い!」
と怒号に近い声
「わ、私何か言いましたか!?」
通信回線を開いたままだったのでルミナは驚いた
「い、いや違うよ」
急いで訂正するワイズ
「そうですか」
ホッとするルミナだが、
「あ...はい、解りました。ワイズ候補生、指令です「現場に赴き原因を究明せよ」とのことです」
落ち着いて指令を伝えるルミナ
「了解!」
と短く返事をすると通信回線を閉じるワイズ
「俺のミスだ...クソッ!」
そう言うとアウト・サイダーを現場に向けて走らせる


自分の駆る機体のOSがもう一機のVRを告げる
「...もう一機?」
言葉を濁すゼロ
「この一機にもてこずっていると言うのに!」
正面のモニターを睨む目は、先に戦闘を初めていたVRを捉らえている

相手のVRはアファームドのカスタムタイプで、その両手にはトンファーの代わりにテムジンのビームライフルのような武器が逆手で持たれていた

アファームドは両腕を突き出しビームライフルを連射する
「そう簡単には!」
ゼロの機体は、重装甲重武装を思わせない程の滑らかな動きで、連射を避けて一気に距離を詰めて懐に入る
「捉らえた!」
ゼロの機体<スペトライル>の右腕に装着された武器<零・ホワイト>からまばゆいばかりの白いレーザーソードが展開される
「たあッ!」
横に一線、しかし
「!?」
相手は既に真後ろにいた
ヴン
アファームドの両手のビームライフルがビームソードの刃を作る
「チッ」
機体を反転させ右腕の<零・ホワイト>と左腕の<絶・グレイ>(実剣)で両てのビームソードをギリギリで止める
「(...このスピード、スペック、まさかと思うがパイロットは...!?)」


「現場に到着、二機のVRが戦闘中の模様」
ワイズが走るアウト・サイダーから見える状況を司令塔に通信で伝える


「...だ、そうです」
ルミナがワイズから聞いたことを全てをミシェーに伝える(教官を任せれている人達は、みんな作戦指令や、なんらかの重要な役目を帯びている。ミシェーはココにおいての最高司令官である)
「解りました。でわ、ワイズ機は...」
とミシェーが言いかけた時
「ワイズ機も戦闘に参加、データを収集しなさい」
とゴウスト所長が言い放つ
「何を考えているんですか!?すぐに撤回してください!」
ミシェーが言う、が
「所長命令よ。解るわよね?」
(所長命令はココにおいて最優先事項である)
「し、しかし!」
引き下がろうとしないミシェー
「了解しました」
と小形モニターに映ったワイズが言う
「ワイズ候補生!?」
驚くミシェー
「フフ...彼の方が物分かりがいいようね」
右腕に左手を添えて右手で顎を支えながら、見下した目で言う
「ッ...!」
うつむき唇を噛むミシェー
「優秀なパイロットは必ずしも、優秀な指揮官になれる訳では無いみたいねぇ」
歩きだすゴウスト
「所長!」
ルミナがゴウスト言い過ぎとまでにを睨むと
「フフッ...」
っと笑うと階段に消えて行った
「ミシェー教官...」
ルミナが心配そうに声をかける
「(この子達をまだ戦いに出す訳にはいかないのに...)」
組んだ手をおでこにつけて考え込む
「司令官!」
「は、はい!?」
急に大きな声で呼ばれて我に帰るミシェー
「ワ、ワイズ候補生?」
大声で呼んだのはワイズだった
「どってこと無いですよ。とは言えませんが生きて帰りますから、大丈夫ですよ」
ワイズの左目は笑っている
「な.....そう言うことじゃないでしょう!?相手は人間かも知れないのよ?」
怒るミシェー
「大丈夫ですから」
ワイズは静かにミシェーの目を見て言う
「...解りました、君を信じます」
ミシェーも静かに言う
「ワイズさん!がんばって!」
ルミナが激励をくれる


「ああ!じゃあ...行きます!!」
アウト・サイダーが二機に走って向かう


「もう一機が!?この!!」
<零・ホワイト>を全力で振り払うと、アファームドは後退する、そして
「邪魔だ!!」
アウト・サイダーに向かって右肩のプロトタイプ・バイナタリー・ロータスから高出力のレーザーが撃たれる
「うおっ」
ジャンプで回避するアウト・サイダー、しかし
「甘いッ」
いつのまにか同じ高さにジャンプしているスペトライル
「キャンセル撃ちかよオイ!(なんて反応だよ)」
「アサシン・ライン射出!」
スペトライルの左手首からワイヤーのような物が飛び出る
「なんだか解らないが当たらないことに!」
空中で右に走るアウト・サイダー
「こしたことは無い!」
と同時に左腕のマシンガンが火を吹く
「スペトライルがそんな物に!」
直撃なのだが、ほぼ無傷

距離を置いて着地、向き会うアウト・サイダーとスペトライル
「(しかし...)」 「(奴の動きは...)」 二人とも同じ考えにいたる
「お前...ワイズか?」
不意に通信が入る
「!...ゼ、ロ?ゼロなのか!?」
思いがけない親友からの通信にワイズは喜ぶ、が
「悪いですが、私もまぜてくださいな」
聞いたことの無い声の後に二人供の機体のモニターに映像が映る
「タ、タイウ?」
そこには友が、機体のパーツのようにになっている姿が映っていた


第8話 「二つの再開と」 終