第7話 「崩れる<いつも>」


<研究基地地下VRハンガー>


「邪魔だあああああ!」
 コックピットのディスプレイに映し出されたジハードチームのアファームドCに、怒号とともにビームの刃を振り落とすワイズ。その攻撃に真っ二つに別れるカリジスのアファームドC。
「な、なんだよあいつは!?」
戦闘開始直前、ディスプレイに負けを告げられた男のセリフだった。
「こいつじゃ無い...なら次!」
さらに語気を荒げながら、ワイズは次の相手へ淡い赤い光を纏ったアウトサイダーを駆けさせる。

彼が何故最初の戦いのようになっているのか。その原因は、今朝見たメールだった。


<今朝、自室>


 いつもどうりの朝を迎えていたワイズは、いつもどうり端末のメールボックスを確認していた。
「えーっと今朝何か着てるかな?」
ルミナやサナシスからの朝の挨拶メールや、親からのメールやらが、いつもどうりディスプレイに並んだ
「うーん...いつもどうりだなぁ」
苦笑いしながらも、それが嬉しいワイズだった。そんな中、
「ん?」
見慣れないアドレスで一通、メールがあった

<メールの内容>

件名:無題
文:今日戦う相手の中に、君が仇と思う相手が居る。
  信じられないなら、送付した画像を見るといい。

「.....」
無言でメールを読み、そして送付された画像を見る。
「!?」
ガタッと座っていた椅子を倒し、勢いよく立つワイズ
「俺達!?」
その画像に写っていたのは、ワイズ、ゼロ、クイマ、タイウ、ウミのあの日の五人だった。
「でもこのアングルは...」
その画像に写ったワイズ達五人は、何かを見上げるようにこちら側を向いていた。
「まさか!これはあの時のベルグドルの視点!?」
高さ、場所、五人の表情からの判断だった。
「送り主は...不明か」
送り主があの時のベルグドルのパイロットだと感じたワイズが出した言葉だった。


バシュウウウウウ!
 いつもより光の強いCBRの光線が、クェウ機のアファームドC(カリジス機とは武装違い)を一撃の下に貫く。
「違う...」
そうワイズは言いアウトサイダーを、黒い身体と朱い目を持つテムジンに向ける。
「彼なのか?」

<ほぼ同時刻、プログラムルーム>

「すごいです!ワイズ機、短時間連続二機撃破!」
 女性研究員がミシェーを振り返りながら言う。
「(確かに凄い...けれど...)」
ディスプレイに映ったワイズの表情は怒りに染まっていて、ミシェーはそれに不安を感じられずにいられなかった。

(ちなみにここは各パイロットのコックピット内カメラや、訓練戦闘をさまざまな視点から映しだしているディスプレイ等が沢山ある)
「教官?教−かーん?」
返事が無かったことに不満を感じたのか、女性研究員が何度も呼ぶ。
「マェン教官.....ミシェー・マェン特佐!!」
わざとミシェーが嫌っている呼び方で呼ぶ女性研究員。
「教官です!!」
反射的に大声で返すミシェー。拍子に何かを教える時につけている眼鏡がずれる。
「なら返事してくださいよぅ...」
あまりに大きい返事に怯える女性研究員。
「あ、ごめんなさい。で、何?」
焦って謝罪しつつも用件を聞く。
「さっきから気になっていたんですが、エァデ・フアロの二番機と三番機、何もしていないんですよ。これではデータも取れないです」
気を取り直した声。
「確かにそうね」
と言うと、パイロット通信用のマイクに顔を近づて、話しかける。
「二人とも、どうしたの?」
「隊長命令でーす」
と、サナシス。
「ワイズさんに頼まれたんですよ」
とルミナ。
「どんなことを?」
不信げに声を出すミシェー。
「それは言わないように頼まれていますので」
「そゆことでーす、データ取りは2on2と1on1の時にがんばりまーす」
と二人の連携返答。
「貴女達ねぇ...そう言うことじゃなくて」
また焦るミシェー。
「黙秘権」
「でーす」
と二人の連携返答パート2.
「教官命令!貴女達のプライベート情報、ワイズの端末に画像送付して送るわよ!?」
とうとうキレたミシェー。もっとも監視カメラが候補生の各部屋にあるわけではないので、そんなことはできないのだが。
「何もそこまで言わなくても...」
横で怯えまくりの女性研究員。
周りの研究員やジハードの担当教官も、
「落ち着いてください」と、焦りながら言うが、
「.....」
ミシェーがめがねを光らせて皆に沈黙を命ずる、すると、
「...」
と、皆黙る。
「さぁ答えなさい!」
さらに凄みを効かせて言うミシェー。
「わ、解かりましたから落ち着いてよ教官!」 さすがに焦るサナシス。
「今日は俺に三機とも相手させて貰いたい。と、ワイズさん言っていました」
とこちらも焦りながら返すルミナ。
「ルミナ!?」
何故か驚くサナシス。
「ワイズさんにバラされると困りますから...」
半泣き乗ルミナ。
「(ワイズ君にバラされると困ることしてる、って言っているようなものね)」
唇が引き攣っているミシェー。
「だからって!こうゆう場合は普通嘘でもつくもんよ!」
と怒気混じりのサナシス
「(こっちはこっちで、弱腹黒いし)」
肩をガクッと下げるミシェー。
「例えばどんな?」
まだ半泣きのみシェーがサナシスに聞く。
「う...」
聞き返されることを考えていなかったのか、言葉が無いサナシス。
「とにかくワイズ君に理由を聞いてみましょうか」
パイロット通信用のマイクを持ち直すミシェー。
「ワイズ君」
だが返事は無い。
「ワイズ候補性?」
またも返事は無い。
「おかしいわね.....」
そう言うと、
「スゥ.....」
息を深く吸い込み、
「ワ・イ・ズ・く・ん!」
とでかい声でパイロット通信用のマイクを握りながら言う。だがまたまた返事は無い。
「...シカトとはいい度胸じゃない...ワイズ君」
ミシェーが怒りに震え始めようとした時、
「違いますミシェー教官!ワイズ機の通信回線にプロテクトがかかっています!」
女性研究員が叫ぶように言う。そして周りはざわめきはじめる。
「な...?それは本当!?」
ミシェーの顔がマェン教官から、ミシェー・マェン特佐のものに替わる。
「解除と原因は?」
女性研究員の座るシートに手を置き、ディスプレイに目をやる。
「プロテクト時間がかかります、原因は人為的なものということ以外は何も」
焦りながらも説明する女性研究員。その手はキーボードの上を急いで動く
。 「あなたはそのまま解除を続けて。ルミナ、サナシス、あんた達からも通信できない?」
指示をだすミシェーの目は、真剣そのものだった
「こちらルミナ、先程から通信はしているんですが、何も反応ありません!」
半泣きの声は既に無いルミナが答える
「こちらサナシス、あたしの方も通信反応ありません!」
サナシスも先程とは声がまったく違う
通信を受けてミシェーはこう考える
「(何か...キナ臭い...)」

「緊急事態発生!エァデ・フアロの整備スタッフはアウト・サイダーのシステムチェックを!研究基地内には進入者が居る可能性あるから警戒退勢に移行!」
腕を勢いよく水平に振り払いながら、ミシェー特佐が言い放つ


いつも穏やかな時間が流れていた研究基地に、いつもとは違う異質な時間が流れ始めた



「君なのか?ストラ!」
問いかけるワイズ。だがストラは通信回線すら開いていない。
そして、難の前触れもなくホワイト・アウトする仮想戦闘地域。



ホワイト・アウトから、次第に見えてくる周囲
「いったいなにが?...ここは!」
ワイズは見えて来た場所に驚愕した
そこはワイズ、ゼロ、クイマ、タイウ、ウミ、この五人の運命もう元に戻らない程変えた場所だった
「ここが...仮想戦闘地域に登録され...」
信じられないように見渡すワイズの目に、ある五人が映る
「ゼロ!クイマ!タイウ!ウミ!」
それは仲の良かった友と、かつての自分だった。思わず喜びの声が出た。たとえそれが、CGの映し出したニセモノだとしても。
さらに今度はワイズの視界に本来そこに居ない筈の機体が入る。朱い目と黒い躯を持つストラのテムジン。その機体は右手に持ったビーム・ライフルの銃口を五人に向けていた
「みんな!逃げ」
全ての言葉が出る前に、五人は光弾に消されていた
「あ...ああぁ.....うわあああああああ!」
ワイズの悲鳴ともとれる怒りの声とともに、赤薄い光を纏い、アウト・サイダーは輸送機から飛び出した
CBRを途中で道路に突き刺し、ストラ機の両肩をそれぞれの手で掴みながら、地面すれすれの高さで飛ぶ
「このままビルにぶつけてやる!」
ストラ機の足が道路を削る中
「...」
口だけ笑うストラ。そして機体を横に回転させアウト・サイダーの腹部に強烈な蹴りを入れる。それはビルにぶつけられる直前のことだった
「な!?」
思いがけない攻撃に声をだす。衝撃や振動は無い、シュミレーターだから
「なろお!」
機体のバランスを直そうと試みた時、アウト・サイダーの左肩に光弾が当たる
「!?」
さらに追い撃ちを駆けるように右肩、左足、右足、また左肩と幾度か繰り替えされて、アウト・サイダーは道路に背を着ける
「駆動系に支障の出るダメージは無い.....遊ばれてるのかよ...!」
横に道路に刺さっているCBRに気付くと、首を正面に向け
「うおおおおお!」
左腕に装着された軽量型マシンガンを狙いを着けて打ちながら立ち上がる
マシンガン全ての弾をステップなどで避わしながらストラは冷酷に笑い言う
「たのしいですね」
と。
アウト・サイダーは左腕を下げ、道路から引き抜いたCBRを右手で構える
「いぃぃぃけえええ!」
スライド変形したCBRの普段の光線は薄い水色なのだが、この時は赤かった
「当たらないですよ」
ジャンプで避わすストラ
「それなら!」
右手に左手を添えてCBRの角度を変え、理矢理光線の軌道を変える
「これで!」
ストラ機はそれを予測していたかのようにブーストを放出し、右横に軌道からずれて避わす
「しかし...時間もないですからね...そろそろG・Bシステムを覚醒して貰わないと!」
フルブーストで一直線にアウト・サイダーへ向かう。手に朱い光の剣を携えて(ビーム・ライフルのビーム・ソード・モード)
「なっ!?早過ぎる!」
瞬時に自分の前に現れたストラのテムジンに驚く
ガギィィィイイ
「ぐぅううう!」
間髪バックステップをしながら力一杯ビーム・レイザーで防ぐと、ビームの剣と刃が二機の間で光花を散らす
「なかなかの反応.....このぐらいでは駄目かですか...ならば、前と同じの状況ならどうですか!」
ストラは自機にバックステッブと同時にボムを放る
前に力を入れていたアウト・サイダーは、前のめりに倒れこみ、正面からボムを喰らい、後ろに吹っ飛ぶ
「左腕でガードしてこれかよ...!」
コックピット内ではアラートが鳴り、機体の各損傷を伝える。外から見るとアウト・サイダーの左腕が半分消えている
ワイズが機体を立ち上がらせようとした時、煙の中ストラ機の左足が、アウト・サイダーを阻む
「なっ...!?」
煙が晴れて、ディスプレイに映しだされたストラ機は、アウト・サイダーのコックピットにビーム・ライフルの銃口を向けていた。ワイズの目にはあの時のベルグドルとストラのテムジンがブレて被る
「死ね」
通信回線を開き、朱い目を見開いストラがあの時と違わない声で言う
「.....!!」
髪が逆立ち、右目が深緑からみるみるうちに金色へ変わり、ワイズは叫ぶ
「俺独りで...死ぬかよおおおおお!!」
アウト・サイダーが強い赤い光を放つと同時に、ストラはトリガーを引いたが、光弾はアウト・サイダーに届かず赤い光に掻き消える。それを見てストラはアウト・サイダーと距離を取る
「覚醒させましたか...」
静かに嬉しげに言うストラ
「...」
アウト・サイダーは赤い光に包まれながら浮き上がると、CBRをビーム・レイザー・モードにして、ストラ機を睨み着ける。まるでワイズと同調するかのように
「赤い光...まるでワイズさんの怒りを表しているようですね...いいでしょう...怒りのG・Bの力、見せていただきます!」
「オオオオオオオオオオ!」
二機は互いに武器を構え正面へ、駆け出す


「う...」
ワイズが目を覚ますと、彼はベットに寝かされていた
「...」
ぼやけた視線が天井をしっかりと見えるようになると、意識もハッキリと覚める
「なんで病室にいるんだ?」
頭を掻きながら周りを見渡し、端末で見た研究基地の病室の資料を思い出す
「髪解けてるな...」
横にあった台の上に自分のヘアゴムを見つける
「(いまいち感覚が変だな...)」
髪をいつもの髪形に結びながら考える
「いったい何で寝てたんだ?」
服も変わっていて病人の着る服になっていた
バターン!
勢い良く病室のドアが開く
「ワイズ!」
それぞれの呼び方でワイズを呼びながら見慣れた顔が入って来る
「よう!みんなどうしたんだ?」
いつもの声で皆に問う
「ワイズさん!よかった!」
泣きながらルミナが抱き着いて来る
「ワイズの馬鹿ーー!」
次にサナシスが(サナシスが抱き着いた時に、彼女の頭が顎に当たった)
「イツツ...何かあったの?」
泣いている二人に聞いても答えは返ってこなさそうなので、正面を向いて別の人達に聞く
「何があったか判りませんの?」
驚いた顔で聞き返す冬花
「お前まるまる9日寝てたんだぜ」
と、クイマが呆れた顔て言う
「...」
それを肯定するかのようにイースが、目を閉じてうなずく
「はい!?」
凄く驚いた顔のワイズ。頬には一筋の汗が
「それと目を覚まして早々に悪いけど、明日から貴方達は、基地護衛の命令が出てるわ」
ミシェーが嫌そうに言う
「マジっすかぁ...」
白くなるワイズだった



第7話 崩れる<いつも>」 終