第6話「予兆という名の日」



[10日後、二回目の休暇に食堂にて]


「加恵さん和食セット頼めますか?」
朝5時27分、地下食堂にワイズの声が響く
「あいよ!直ぐできるからそこで待ってなよ」
と食堂を指揮っている加恵柳木が返す
「はいおまち!にしても今日はやたら早いんでないかい?」
見ると周りには、ちらほらとしか人はいない
「ありがとう...ちょっと訳ありでね」
苦笑いをしながら、ワイズは朝食の乗ったトレーを受け取る
「あんたも大変だねぇ」
あごに手を付け、肘を台付けて言う柳木
「俺には、どうしようもでき無いですから」
そうワイズは苦笑混じりに言うと、朝食をいただくべくテーブルへ移動した

ワイズの朝食は、普段ルミナかサナシスが誘いに来てから、三人で取るのが普通になっていた。しかし最近は冬花も一緒に朝食を取ろうとするので、サナシスと冬花が必ず口論をしてしまっていたため、ゆっくり朝食を取れないでいた。かと言ってルミナだけと朝食を取りに来てしまうと、サナシスが拗ねてしまうか ら今日は一人、朝早くに来ていた

座って朝食を取っていると、前にルミナとサナシスとで初めて朝食食べていた時に、何故かいちゃもんをつけてきた、ここを守る防衛隊の一人カインが隣に座ってきた
「(また何か言われるかな?)」
ワイズが不安げに朝食のはしを進めていると、カインが切りだしてきた
「よぉ。ワイズ候補生君」
「お、おはようございます」
予測外のカインの切り出し方に驚くワイズ
「まぁそう堅くなるなよ、こないだは悪かった」
こないだと言うのはいちゃもんを付けた時のことのようだ
「い、いえ、気にしてませんから」
またも予測外の言葉
「あん時酔っててなぁ・・・隊長が朝なのに飲ませるからよ。マジですまなかった」
トーストをかじりながらこたえるカイン
「なれない事はしないもんだな、あの後酒抜けてすごい後悔したぜ」
「もういいですって」
とワイズ、しかし
「(でも朝から飲ませる隊長って・・・)」そんな部隊に守られているのかと思ったワイズは、背中が冷えるのを感じられずにいられなかった



少しの間彼等は、会話しながら朝食を取った



「さてと、本題に入るぞ」
頭と体をワイズに向けて言う
「本題?」
「今日から十日後に、ここを守ってる俺らのチーム<ガーディアンズ>が、数日間任務で基地を空けるのを知っているか?」
とカイン
「いえ、知りませんが?」 今日何度目か解らない疑問符を浮かべるワイズ
「だよなぁ、正式発表まだだしなぁ」
「そうなんですか」
と、聞き流そうとしたが
「ってそんな事言って大丈夫なんすか!」
と、焦るワイズ
仮にもここは軍施設、情報の漏れはいけないだろう
「隊長にも所長にも、OK取ってあるから安心しとけ」
笑い、そして続けるカイン
「君らエァデフアロは、その間基地の警護してもらうことになった」
「俺達?何故?」
「理由はデータ取り戦績らしい、見せてもらったが、あのまま行ったらトップだからだろう」
嫌になりつつ答えるカイン
「でもよく所長が了承しましたね・・・」
納得できないワイズ
「俺らは推薦してねぇよ。むしろ反対したさ。所長が言ったんだ」
さらに嫌になるカインの表情
「どうせそのうち実戦に出るんでしょ、だったら成績優秀な彼等で決まりよ!だとよ」
所長の真似しながら言うカイン
「・・・やっぱり所長嫌いだ」
と冷めた声
「ハッ、同感だぜ」
カインもミシェーと同じく、子供たちに戦争の教育はしたくないらしい。だからこの間、酔っ払いつつも悪態をはり、ワイズ達をここから追い出そうとあんなセリフを吐いた、とのことだった



ここの研究基地(名称はゴウスト・イメッヂ)の所長は、ハッキリ言って性格最悪で、部下たちの評判も悪い上に、裏では何か企んでいると噂が絶えない(ちなみに言葉使いは女だが性別は男)奴だ



「んじゃ、俺は行くかな」
席を立つカイン
「最後に一ついいですか?」
とワイズ
「なんでい」
「何故、正式発表前に、わざわざ知らせてくれたんですか?」
「先に知らせた方がいろいろ楽だと思ってな」
ようは、対策を今のうちに考えておけ。と言う事だ
「ありがとうございました」
その気持ちを汲み取ったのか、しっかりと御礼を言うワイズ。それを聞いたカインは、腕を上げると手をヒラヒラさせて食堂を出て行った



[同時刻、所長室]


「はい、全て手はずどうりです、はい、解っております」
ブラインドを下げ、電気もつけづに、真っ暗な所長室に二人の男が居た
「はい、では失礼します」
誰かと通信をしていたのはこの部屋の主、所長だ
「ふう…」
ディスプレイから目を離し、もう一人の男を見る
「あたしはね、こんな辺境で埋もれるつもりは無いのよ。あんたなら解るでしょ?失敗作君」
目の前に居る男に言う
「お気持ちお察しします、所長」
薄紫のキレイな髪の少年が、笑顔で言う
「いけ好かない笑顔よねぇ、皮肉言ってるってのに。まぁいいわ、頼むわよノクテゥルヌ特尉」
「ここでは候補生ですよ、ゴウスト准将殿」
また笑顔。だがその笑顔には、さきほどののにもだがどこか怖さがある
「はいはい、もう行っていいわよ」
手をあっち行け、とばかりりに振る
「では失礼させていただきます」
笑顔を崩さぬまま部屋を出るストラグル
パシュッ
ドアが開き、閉まる音。ゴウストはそれを確認すると、立ち上がり、ブラインドを上げ、照明をつけた
「今日のスケジュールを教えて頂戴」
と先程とは別のディスプレイに言いながら、質のいい椅子に座った



[数十分後、地下VR格納庫へ続く廊下]


「ワイズ・スカイフレンさんですか?」
後ろから呼ばれ、足を止めるワイズ
「そうだけど君は?」
振り向き、問いだしてきた相手に問い返す
「私は次に君に君のチームと戦う、チームジハードのリーダー、ストラグ・E・ノクテュルヌと申します。ストラとでも呼んでください」
笑顔で頭を下げると、薄紫の髪が少し揺れる
「丁重にありがとう。でも俺のことは、呼び捨てでいいよ」
「最低限の礼儀ですよ」
あいも変わらず笑顔で答える
「今日は明日からの為に挨拶に話し掛けたんですよ」
手を差し出すストラングル
「こちらこそ」
と、笑顔で握手する
「では用事があるので、失礼します」
振り帰りながら頭を又下げる
「うん、じゃあ」
ワイズも振り帰りながら手を軽くあげて返事をする
「(まじめでいい人だな)」
と、思ったそのとき、
「!?」
キンと詰めたい、鮮血のように赤い視線を感じて、ワイズは片足をつけた
「(なんだ?今のは…)」
急いで振り向くと、ストラングルは居ない
「(き、気のせいか?)」
大きな恐怖を感じつつも、クイマの居る地下VR格納庫へと、急いだ



[VR格納庫]


「疲れてんだろ?」
先程の鮮血のように朱い視線のことをクイマに話した所、こう返事が帰って来た
「なのかな...」
コックピットにはまったまま、真剣に悩むのワイズ
「疲れ残すなよ〜。明日からまたデータ取りなんだからな」
視線をディスプレイに向けたまま続ける
「あとよ、たまには敵サンの機体でも見にいったらどうよ?」
下を指さす、相変わらずディスプレイを見ながらだ
「?」
コックピットから身を乗り出し、クイマが指さした方を見ると、見慣れないスタッフがいた
「ジハードのスタッフだ、偵察ってこったろうけどな」
なにやらミスでもしたのかペンで帽子ごと頭を掻くクイマ
「そういや一回も機体見て歩いてないな、俺」
空中に視線を迷わすワイズ
「それでよく勝てるな、ゲーセンの時とは大違いだな」
小さく笑うクイマ
「遊びじゃ無いから...かな」
小声で言うワイズ
「なんか言ったか?」
ワイズを見る
「なんにも?」
惚けた顔でクイマに視線を合わせる
「なんか言うならハッキリと言えよな」
と不満げに言いながら視線をディスプレイに戻すクイマ
「うい。んじゃ俺は偵察行くかな」
コックピットからキャットウォークに勢い良く飛び出るワイズ
「...落ちて怪我すんなよ」



[チーム ジハードのVRハンガー]


「敵さんの機体は...と」
歩きながら明日から相手となる機体を見るワイズ
「アファームド2機とテムジンか」
と言うとテムジンの前で足を止める
「朱い目だな...」
そのテムジンはVRの目であろう部分が朱だった
「まさかさっきの視線でこいつじゃ...」
はっと我に帰る
「なんで廊下にVRがいるんだよ...通れるわけ無いだろうが〜?!」
自分にツッ込む
「どうも変だな...なんでだろ」
ふと、いつも左右にいる筈の女の子達を思い出す
「あの二人がいないから...?」
彼女達の存在が、今の自分を象る程、大きな存在になっていたと、今頃気づいたワイズ
「謝りに行こうかな...」
別に彼女達を傷つけた訳でも無いのだが、そう漏らしたその時
ガバッ
「!?」
不意に、後ろから首を絞められる
「ワ、イ、ズ、くぅ〜ん?一人でなぁにをしてるのかなぁ〜?」
怒りの声の主はサナシスのようだが、何故だろうか、ワイズは嬉しかった
「ほら!答えなさいよ!」
だんだんと締める力を上げていくサナシス
「ギ、ギブ!ギブギブギブ!」
本当に苦しくなったころ
「サ、サナシスさん!ワイズさん締め過ぎですよ!」
焦ったルミナがサナシスを止めようと声をかける、が
「...」
時すでに遅し
「ワイズ君!?」
「ワイズさん!?」
情けなくもワイズは目を白くして気絶した



ち〜ん(イヤ、死んでないけどね)



「ん?ここは?」気付くとワイズは病院のベットに居た
「よかった!ワイズさん!」
半泣きのルミナが抱き着いてくる
「!?どうしたのルミナさん?」
訳が判らない様子
「え...と」
病室の隅で申し訳なさそうに立つサナシスが声をだす
「ゴメンね...ふざけて力入れすぎちゃって気絶させちゃった...」
下に俯いたまま言う
「なぁる!」
とワイズが手をポンと叩く
「だから俺病室にいるのか」
「へ?」
変な返答にズルッと肩を落とすサナシス
「怒って...ないの?」
「ぜんぜん」
笑顔で即答のワイズ
「それより二人とも、ごめん」
「はい?」
泣いていたルミナが顔を向けてくる
「なにが?」
とサナシスも改めてワイズを見る
「こっちの話」
と笑顔のワイズ
「なんなんですか?」
「教えなさいよ!」 いつもどおりサナシスに絡まれ、ルミナに心配されるワイズ
「こっちの話ですよ」
と彼は笑っていた




次の日午前3時


「こちらA班、プログラムルームに到着」
黒服を着た男がトランシーバーに言う
「こちらB班、アウトサイダーのG・B制御パネル前に到着」
こちらも同じ服装の男だが、場所が違う
「OK,では両班とも作業を開始してください。ただ両班ともプロテクトに取り付きしだい私に連絡をください。私が解除します」
インカムを付けた薄紫髪の少年が、電気を付けていない自室で指示を出す
「了解」
「ラジャー」
指示を受けた黒服達は作業を開始する
「さて、私も作業を開始しますか」
ノートパソコンを開き、キーをカタカタと打ちはじめる
「朝早く所長に頼んだかいがありました。お陰でみなさん楽に進入できたでしょうからね」
インカムの音を切らずに言う

今日、プラグラムルーム入口やVR格納庫には警備員などが居ないのは、彼の差し金のようだ

「特尉!」
急いだ声が、薄紫髪の男に耳に届く
「なんです?B班さん」
と返す薄紫髪の男
「G・Bプロテクトプログラムに取り付き成功しました。指示を!」
言葉の勢いを殺さず喋る
「流石に速いですね、しかしもう少し落ち着いたらいかがですが?」
と薄紫髪の男
「す、すいません特尉!」
さらに急ぐ言葉
「気になっただけですから、謝らなくていいですよ。あとはこちらに回してください、先程申したとうり、私がやります」
少しも語調変えず言う薄紫髪の男
「了解!」
と言って通信は切れたとたん、別の班から連絡が来る
「ストラグル特尉」
「...カオス博士、そこで何をなさっているのです」
思いがけない相手の声に眉を潜めながらも、キーボードを叩くスピードは落ちないストラグル
「何君に手を貸そうと思ってね
」 とカオス
「しかし私には、目の前にあるVRに見入っている貴方が目に浮かびますが?」
ハッキリと問い返すストラグル
「ふむ...やはり君は勘がいいな」
素直に返すカオス博士
「VRのデータは持って帰るといいましたよね?」
信用されていないと感じたのか、少しは語気は荒い
「ただ単に待ち切れなかっただけですよ、しかし...無理してでも来たカイがありました」
アウトサイダーをなにか考えながら見上げるカオス博士
「何故?」
とストラグル
「フフ...こちらのG・Bのプロテクトは解除しておきましたから、今日はそれで勘弁と、言うことで」
インコムの向こうで小さな笑いが聞こえる
「わかりました、みんなさん直ぐ撤退を、特に博士を頼みます」
とインカムに言う
「ラジャー」
「了解」
「待て、そっちの解除は終わっていたのかい?ストラグル」
「ご心配なく」
と言うとストラグルは、インカムの電源を切り、外した
「さて、明日が楽しみだね」
朱の鮮血のような目が、闇に笑った



第6話「予兆という名の日」 終