第5話「名前」


9日後
地下ハンガーでは、エァデフアロ対アグレッシヴの最後の組み合わせの一つであるワイズ対イースが行われていた。


この訓練(データ取り)は各チーム3対3、2対2、1対1と各組み合わせの戦闘を各員計10回ずつ行い、終了したら一日休暇をあたえられ、また今度は別チームと同じような組み合わせをする。と言うような感じであった。


バシュッ
イースがライデンCに撃たせたロケット・ランチャーの弾は直線を描きをテムジンCを狙う。
ダンッ
砂漠の砂を力強く踏みワイズが駆るテムジンCが飛翔する。
「あたれよ!」
空中でスライド変形したカスタム・ビーム・ライフル(以下CBR)から光が放たれる。
「!」
それを察知してバックダッシュでかわすイース。
CBRから放たれた光は砂地に当たり、大きな砂煙をたてる。

この戦いの地形は砂漠で、他に見えるのはサボテンぐらいである。

ワイズは砂煙の中にテムジンCを降ろした。するとまた砂煙が起きる。今度のは着地時に起きた物の様だった。
「...いけ!」
相手が着地するや否やイースはワイズ機が着地したであろう砂煙の中を全武器で撃った。
ドゴォォォン
爆発とともにまた砂煙が立つ
「ミス...か」
相手を仕留めた場合ディスプレイにYOU WINと表示されることからの判断だった。
砂塵が晴れ、あたりの風景を見渡すイース
「(いない・・・レーダーにはかかってる・・・砂中・・・)」
イースの機体は実弾兵器のみなので、ワイズ機が深く潜っている場合、そこまで攻撃が届かない可能性が高い。イースは残弾を確認した。
「(ロケットが1、マイクロ弾倉が2・・・か)」
それはイースの仕掛けた攻撃が、ことごとくワイズにかわされていた結果だった。
一方ワイズはと言うと、回避重視で先程の一撃しか攻撃をしていなかった。
短い静寂が流れる。それを破ったのはワイズだった。
ゴゴゴゴゴ
砂が動き、何かが上に上がってこようとする。
「!」
瞬時にそれを察知したイースはダッシュを駆ける。レーダーの反応は正面にあったのでイースの反応はかなり速い物だった。
「(マイクロ弾倉が分離する時間すらおしい。塊をくらえ・・・!)」
しかしその反応の速さが勝敗を分けたのだった。
上がって来た砂の中に有る者を確認する前にイースは武器を放った。だが、上がってきたのはテムジンCではなくスライド変化したCBRだった。
気づいた時には大爆発が起こり、イース機は後ろにふっとばされた。シュミレーターなのでパイロットに衝撃はない。
「(このためにCBRをあまり使わなかったのか・・・)」
ただでさえ威力の高いロケットやマイクロ弾倉を、エネルギーの全然減っていないCBRに撃ち込めば、大爆発を起こすのは必死だ。
イースが機体を立ち上がらせようと試みたその時。砂煙の中火線が走り、ライデンCの頭部は破壊された。
イース機のディスプレイにはYOU LOSEの文字と、砂煙が晴れる中、左腕の煙の流れる軽量型サブマシンガンをイース機に向けたワイズのテムジンCが写っていた。
「参考になる戦いだった・・・これからもよろしく」
「あ・・・ああ」
戦闘訓練終了後、ワイズは自機の足元に来ていた。ただなんとなく来ただけなのだが、そこにイースが来て、お礼(?)を言われた。前に戦った後のフェールに文句言われていたので、又文句を言われるのかと考えていたのだったが、あまりにも違うことを言いに来たイースに、少し面食らっていた。
「じゃ・・・」
「お、おう。またな」
廊下に向かったイースに返事をした


イースが去った後もワイズは自機の足元にいた。
「う〜ん」
真剣に悩んでいた。
「君の名前・・・なんてしようか」
ワイズは自機に名前をつけようとしていたのだった。
「・・・アウトサイダーなんていいかな・・・」
「局外者?VRの歴史に埋もれる実験機につける名前にしては、いい感じね」
声がした方向に体を回すワイズ。
「ありがとう。ってあなたは誰?」
そこには着物のような服を着た、白い長い髪の女の人がいた。
「私はあなたの次の相手をするチーム、オンリッシール・シーズンのリーダー御崎冬花(おざきふゆか)です」
ゆっくりお辞儀をする冬花。
「御丁寧にどうも。俺は・・・」
自己紹介しようとすると。
「エァデ・フアロのリーダー、ワイズ・スカイフレンさんでしょう?個人戦、今の所無敗の」
「・・・ええ。一応ね」
驚くワイズ。
「何も驚く必要はないでしょう。ここでは有名な話です」
ニッコリとした顔で近づいてくる。
「でも一つ訂正!明後日戦うのはエァデ・フアロの仲間たちと一緒にです」
訂正してみせるワイズ。
「フゥ・・・ワタシはぁ、あんなお子様よりぃ、あなたにぃ、興味があるのよぉ?ワイズ君」
まるで誘惑するかのように、語調を変え顔を真近にしながら言う冬花。その姿はまるで、口づけをしようとする雪女だ。
あと数センチで唇が触れようとしたその時。
ビュン
薙刀の刃が二人の顔の間に割って入る。
「誰っ!?」
怒りの声を出し、薙刀の主に顔を向ける冬花。
「こんなところで何をしようとしてるのアンタ?」
こちらも怒り声を出す。薙刀の主はサナシスだ。

この薙刀は軍からの支給品ではないが、候補生達は、軍から携帯銃と希望の武器を支給される。対人専用らしく、訓練もさせられる。サナシスのは家から取って来て貰った者で、名を「大地」と言う薙刀らしい。ワイズも同じく家から、太刀「蒼空」を取って来て貰い、今は腰からさげている。


睨み構え会う冬花とサナシス。
冬花は腰のホルダーにある小太刀に手を掛けようとしていたが、不意に体制を直すと
「貴女に話すつもりは無いわ、サナシスさん」
と、言い歩き始める冬花
「じゃ続きは又今度ね。ワイズ君」
「あ、ああ、またね」
近すぎる薙刀にビビッた顔のまま言うワイズ。
「やっぱり覚えて無い・・・か」 と小さな声で何か言って行く冬花。 パシュ
廊下へのドアが閉まる。
「(そういやあの人どっかで・・・)」
なにかを思い出そうとするが
「ワイズ君!」
「はい!?」
サナシスの声にハッと我に返るワイズ。
「なんで何も言わないの!」
「えと・・・」
「まさかこないだの兵士の悪口みたいに「慣れてるから」じゃないでしょうね!」
半泣きのサナシス
「い、いや(あんなこと四六時中される訳ないし!)」
焦るワイズ。
「もう!知らない!」
薙刀の刃をしまわないまま廊下に走る。
「まって!・・・って薙刀の刃出したまま走ってるし・・・」 頭をかきつつ走って追うワイズ。


次の日のワイズの休暇は、サナシスの誤解を解くのに一日費やしたそうな。


[各チーム、準備よろしい?]
ミシェーの声がスピーカーから聞こえる。
「オンリッシール・シーズン点呼取ります、夏樹(なつき)」
冬花が点呼を取る。
「準備オッケ問題無しや!」
明るい声。
「宜しい、秋草(あきくさ)」
「準備は終わっている」
静かに言う。
「...まぁいいでしょう。教官、オンリッシール・シーズン全員OKです」
いつでもどうぞとばかりに言う冬花。
[はいはい...にしても長いチーム名よねぇ...]
とミシェーが漏らすと。
「名前にはそれぞれ意味があるんです!長い短いの問題ではありません!」
とまるで怒るかのように言う冬花。
[何も怒こらなくても...]
焦るミシェー
「いいえ!言わせてもらいます!名前と言うのは...」
[後で聞くから!次!エァデ・フアロ!]
逃げるかのようにワイズにふる。
「点呼取ります。ルミナさん?」
「はい、いつでも行けますよ」
と優しく返す。
「うん、ありがとう。サナシスさんは?」
「...」
返事が無い。
「...まだ怒ってらっしゃるんですか?」
実はルミナも、昨日の休暇にサナシスの機嫌を直すのを手伝っていたのだ。
「違うわよ」
答えるサナシス
「なんでルミナが先に聞かれるの!前の時みたいに二人同時に聞きなさいよ!」
と言うことらしい。
「ゴメ....」
ワイズが謝ろうとしたその時
「謝る必要は無いわ!ワイズ君」
と冬花
「アンタは別チームでしょ!入ってこないでよ!」
と怒るサナシス。
「サナシスさんも冬花さんも落ち着いて」
静止するルミナだが
「貴女は黙りなさい」
「ルミナは黙ってて」
と同時に言われる。
「...ワイズさぁん」
ヘコむルミナ。
「二人とも止...」
ワイズが言いかけた時
[ハーイそこの三人!ワイズ争奪戦は戦闘が終わってから私も混ぜ...]
「はぃぃ!?」
耳を疑ったワイズ、その表情はかなり驚いている。
[ジョークよ..今回の戦場は巨大空母戦艦そこから落ちた機体は戦闘不能だからね]
「了解」
とみんなそれぞれの言葉で言う。
[では戦闘開始!]
教官の声が皮切りに各機体のディスプレイが変わった。


3対3の遠距離での打ち合いが続く中
「では、みなさんそろそろ打ち合わせどうちに行きます」
「おーう!」
「うむ」
オンリッシール・シーズンが動く。
夏樹のバイパー2Cからは8WAY・マイクロミサイルが、冬花のバル・バス・バウCの大量のフローイング・マインが、アウトサイダーを襲う。
「リーダー機(俺)狙いか?だが、当たるかよ!」
ダッシュと打ち落としで回避するワイズ。
空母が気流の関係か何かで傾く。
「サナシスさん、ルミナさんは敵をマークして...」
最後にきたマインをダッシュ回避したのがいけなかった。ダッシュ終了後の僅かなスキを秋草が駆けるバイパー2Cの蹴りがワイズ機を捉える。
「ハッ!」
秋草の声
ガキィィィ
CBRでガードしたものの、空母が傾いたのとダッシュ後の体勢の悪さがあいなって、かなり後ろに飛ばされる。それを追う秋草機
「ワイズさん!」
「ワイズ君!」
ルミナとサナシスが叫ぶが、
「貴女の相手は!」
「あたしよ!」

こうして、空母の上にはワイズ対秋草、ルミナ対夏樹、サナシス対冬花の、1on1×3と言う形ができあがった

ガキンッ!ガキッ!ガキィィィン!
剣線を結んでいたワイズ機と秋草機が離れ、間合いを取り合う
「やるな」
ビームサーベルとカッターを構えた秋草機から聞こえる。
「秋草さんこそ」
CBRをビーム展開させず、構えるアウトサイダー。
空母が雨雲に入り雨が降り始める。


ガシャン
氷に貫かれた夏樹機が倒れる
「すみません夏樹さん」
謝るルミナ
「ええてええて!勝負なんやし、しかたないやって」
ザーザーと降る雨が、夏樹機を貫いた氷を成長させる。それだけ強い冷気がででいるのか、それともシュミレーターの過剰表現なのかは、実戦でない今はまだ解らない。
「(霧がでてきた..迂闊に援護に行ったら私が落ちてしまうかもしれない・・・ワイズさん、サナシスさんがんばって!)」

「多面攻撃、さすがにキツイわね」
薙刀を構えたフェイ・グレイダーの中で毒づくサナシス。切り離したビット・ユニットからフローイング・マインが常時出されていて、冬花本機との多面攻撃になっていた。
「まだまだいきますわよ!」
主面から接近攻撃をしかける冬花。
「くッ」
ガキッ
薙刀で受け流す。
「このおッ!」
ヴン
「当たりませんわよ、フフフ」
ダッシュでかわすと同時に霧に塗れる冬花機。
「またぁ!?いい加減にしてよ!」
スクリーマー・ボールを放つが、霧のせいで出力が低い光学兵器は無効可されてしまう。
「このままじゃ機体がもたないよ・・・」
サナシス機の周りでマインが爆発する中、霧は晴れて来ていた。


「今まで接近戦をしてないとは思えない動きだな」
機体の右腕を失ったにもか関わらず、秋草は今も尚、戦闘意欲を失っていないようだ。
「負ける訳にはいかないからね(実戦なら一度経験あるし)」
そうワイズは言うと、CBRに光を走らせる。
「やっと本気になったと言うことか」
「さっきからルミナさんがサナシスさんの危機を知らせてくれているからね。援護に行きたいんだ」
ダッシュをかけるアウトサイダー。
「私も負ける訳には行かないからな」
カッターを構え、ワイズを迎え撃とうとする秋草。
空母は雨雲を抜けかけていた


「もう..機体が持たない...!」
空母上のはじに追い詰められたサナシス機は、薙刀は無く、足をついていた。
「落ちて負けるか、私に留めを刺せれるか、貴女が決めなさい」
冬花が冷たく言い放つ。
「好きにしなよ」 諦めたように言うサナシス。
「なら留めを刺してから、落としてあげましょう。フフフ」
「嫌な女(やつ)」
「フフ...」
サナシス機が冬花機の刃にかかろうとした時、冬花機は真っ二つに分かれる。
「!?」
「間にあった」
ワイズの声、近くにアウト・サイダーが立っていた。彼は秋草機を倒した後、グライディング・ラムを使い冬花機を狙ったのだ。
「馬鹿ッ、なんでもっと早く助けに行かないのよ!」
涙声で言う。
「ゴ、ゴメン!」
焦るワイズ。
「いいよもう...ありがとう」
空母は雨雲をぬけていた


戦闘が終わり、機体から出た冬花が何か飲み物を買おうと廊下に出ると、紫髪の男が一人立っていた。
「貴方は」
「彼、強いか?」
いきなり話掛ける男。
「視界の悪い状態でラムを使う判断は、名前の通り賢いとは言えないけど」
「けど?」
「彼、強いわよ」
「それはそれは」
と言うと、男は歩きだし、闇に消えた。
「敵チームリーダーに話すことでは、無かったかしら?」
そういったあと暫く考えこむ冬花。
「ま、いいわよね。ワイズ君なら勝つでしょうし」
冬花は廊下を行くことを止め、ワイズに会うためにVRハンガーへ戻って行った。


第5話「名前」 終