第四話「進まない物語」


<宿舎地下食堂>

「するとあの機体が俺達が見ようと走った機体で、んでもってお前が遠隔操作ベルグドルを倒した時に使った奴だと」
ズズッとソバをすすりながら、地下から引きずっていた疑問の答えを聞き返すクイマ。
「そうだと思う、改修に使われた10/80ってのも俺が乗ったやつかもなぁ」
白米の入った茶碗を置き、推測の域を越えない推測を言うワイズ。
「ん〜、俺が最初に来た時にはテムジン系ここに無かったからなぁ。加えてあの機体今、修理改修強化の真っ最中だしな」
みそ汁をすするワイズが止まる。
「そういや部長は何時からここに来たりしてたんだ?」
「ん?あ〜かなり前だな、今年なって電脳部作って4、5ヶ月かなたしか」
ソバを食べ終わりツユを飲もうとするクイマ。
「結構前なんだ?よくみんなに言わなかったな」
「元々自慢する気は無かったし、ここにも言うの止められたしな」
ツユが熱かったのか舌を出して言う彼等は召集後、朝御飯を食べに宿舎地下の食堂に来ていたちなみにワイズは朝食セット(和食)でクイマは素ソバである。
「あ!いたいた、ワイズく〜ん!」
サナシスが朝食をトレーに乗せてこっちに来る。後ろにはルミナがついてきているのが見える。
「っと、お邪魔になる前に退散しますかね」
ソバの器を持ち立ち上がるクイマ。
「部長?俺邪魔なんて言ったか?」
「...相変わらず鈍感だな」
「?」
「ま、そのうち解るだろ、じゃあな」
「お、おうよ!あ、部長」
思い出すかのように呼び止める。
「何?」
足を止めず振り返らず聞き返す。
「俺の機体たのむぜチーフ!」
とサムズアップ。クイマもそれを感じとったのか無言でサムズアップをして食堂を後にした。
「お知り合いですか?」
不意に何時の間にか右隣に座っていたルミナが切り出す。
「うん?そだよ、ダチだよダぁーチ!」
セルフサービスのコーヒーを飲みながら言う。
「和食にコーヒー?あわなく無い?」
左側に座ったサナシスが白米の入った茶碗を持ちながら話す。
「気分だよ、まぁどっちかって言えば合わないかな、弱失敗。って何か用事があったんじゃ無いんすか?」
聞き返すワイズ。
「あ、そうそうワイズ君、教官達に目つけられてたよ」
「へっ?」
「ずっと睨まれてたのに気づかなかったの?」
ハシを口にくわえながら言う。
「...」
「心あたりは?」
ルミナがまた聞いてくる。
「寝てた...居眠りしてた」
冷や汗が頬を伝う。
「ぷっ...」
「クスッ...」
対象的な笑い声が左右から聞こえる。
「寝不足だったからなぁ..ちなみにサ」
「なんでしょう?」
「一番睨んでたの...赤髪ショートヘアの女性教官..かな?」
恐る恐る聞く。
「え!なんで解ったの?」
驚くサナシス。
「あ〜納得...後が恐いな」
教官の中で一番睨んでたのは、ミシェーのようだ。
「お知り合いなのですか?」
暗く沈んだワイズをルミナは心配そうに見る。
「ああ、説明すると長いからメールするよ」
食べ終わったのでトレー等をかたづけてメールを部屋で打とうと思い、席を立ったが
「!リーダー待っててよ〜女の子置いてくの〜?」 とサナシス。
「リーダー?」
不思議な顔。
「そ!」
「誰が?」
「ワイズさんが私達のチームリーダーですよ」
説明するかの用に言うルミナ。
「チーム?リーダー?」
混乱するワイズ。
「居眠りなさってたので聞いていなかったのですね」
「すみません...説明いい?」
申し訳なさそうに言う。
「ええ!いいですよ。部屋別けにアルファベットが使用されてますよね?そのアルファベットは各階によって違ってて、同じアルファベットを持つ人が同じチームなんです。そしてその中で部屋番号2の人がチームリーダーなんだそうです」
「早い話しが同じ階に住んでる人がチームメイトで、真ん中の部屋に住んでる人がリーダーってワケ、解った?」 ルミナの後にサナシスが簡単に説明する。
「解ったけど俺なんかでいいの?リーダーが
」 自信なさげに聞く。
「元々決めてたことだから変更は聞かないってさ」
駄目押し。
「...解かりました」
先生の仕業だなと心から思うワイズだった。
「あと三日後までにチーム名を決めなきゃいけないそうです」
「チーム名?なんのために?」
半ば呆れたように聞く。
「Bチーム、Cチームじゃ味けないから、だそうよ」
こちらも呆れたように返す。
「昔の小学校かなにかの集まりかよ」

この時代の子供達は12歳までで我々の言う高校までの勉強課程を終わらせていて、小学校や中学校などの概念は無い(作者オリジナル設定)

「しかし三日後とは長いな」
「まだ完成して無い機体や、到着してない機体、候補生が三日後にはそろうから、だってさ。実を言うと私達の機体もまだなんだ」
「そうなんです」
ふとワイズは疑問に思った。
「二人は仲いいみたいだけど知り合いだったの?」
「いいえ、違いますよ。たまたま集会の時に隣どうしになりまして」
「話とか部屋が近いとかで仲良くなったのよ」
タイミングばっちりの連携会話。
「そか。何はともあれこれからよろしく!サナシス!ルミナ!」
「うん! 」
「はい!」
ドンッ!
机にDNAの兵士の手が叩き付けられる。
「両手に花かぁ?餓鬼が」
ワイズに向かい罵声を投げる。
「な、なによアンタ!」
食いつくサナシス。
「嬢ちゃんは黙ってな俺はそこの蒼髪の奴に言ってんだから」
と、いなされるサナシス。黙ったワイズにさらにまくしたてる兵士。
「俺はココを守っているDNAの勇士カインつうんだがな、貴様達モルモットは恋なんかに気ぃ抜いてないでデータ取りでもしてればいいんだ」
「...」黙っているワイズ。
「チッ...シカトかよ」
文句を言い捨て去るカイン。
「なんで言い返さないのワイズ君!」
黙っているのが信じられないとばかりに言う。
「いや、あー言う手の奴は無視するのが一番かなってね」
「大人なんですね」
感心した声のルミナ。
「たんに慣れてるだけだよ、あと考えごとしてたし」
腕組みして答えるワイズ。
「何考えてたの?」
「チーム名」
キッパリと言う。
「何でこんな時に!?」
ズルッと肩を落とす。
「いやぁなるだけ早い方がいいかなぁ...と」
頭を軽く掻く。
「何かいいの浮かびました?」
楽しみとばかりに聞く。
「私も気になる!」
サナシスもだ。
「み、三日後にね」
二人に顔を向けられまた赤面したワイズだった。


三日後
<研究基地地下VRハンガ−>
今ここではBチームことエァデフアロとCチームことアグレッシヴの自機機体のシュミレーターシステムによる戦闘訓練が行われていた地形は岩と砂ばかりの荒れ地で機動戦闘はほぼ不可能な場所だ。
「まだまだ、早々やられるかよ」
機体の周りで爆発や閃光が走る中ワイズが言う戦闘訓練での勝利条件は敵機体全機の戦闘不能または敵リーダー機の撃破だ。エァデフアロ、アグレッシヴの全員は自機を操るのは今日が初めてで、アグレッシヴリーダーのベルラはそれを踏まえ短期決戦のリーダー機撃破をアグレッシヴの全員に発令していた。BAはと言うと、ワイズが散開と言ってからルミナとサナシスはアグレッシヴに姿すら見せていなかった外では戦闘の全てをモニターしている教官や研究員さらには他の候補生達はルミナとサナシスのしていることを見て
「何してるんだ」
と言葉を漏らしていたそんなこととは露しらずワイズはひたすら敵の猛攻をかわすことに集中していた。しかし相手もただの候補生では無い、彼等アグレッシヴは確実にワイズを心身ともに追い詰めていた。
「さすがにキツイかな...」
ディスプレイにHitの文字、さらにOSが告げる。
[右肩にに損傷軽微]
岩の間を縫いつつ敵機の攻撃潜り抜けるのは無理が大きすぎたのか攻撃が微妙に当たるアグレッシヴの面々は静か過ぎるルミナとサナシスに不安と疑問を感じ初めていた。
「静かだ」
ライデンC(Cはカスタムの略)の火器をにワイズの駆るテムジンに撃ち込みつつイースは言う。
「女達カ?フラレたんじゃナイのカ?カカカ」
同じくベルグドルC の光学兵器を放ちつつ不慣れな言葉と勘にさわる笑いで答えるフェール。
「ファランクスMK-2を使用してみる。奴の動きが止まったら一斉に撃て」
ベルラが命令口調でフェールを叱るかのように言い放つベルラの頭には彼女達は既に無いらしい。
「ああ」
とイース。
「ワーッたよ」
とフェール。
ゴォォォーン!
ワイズ機の周りに6本の爆炎の柱とともに砂煙も巻き上がる。
「失策だ...奴が煙でまったく見えない、まさかこれ程とは」
ベルラ機体を止めはファランクスMK-2威力の高さと自分のミスに言葉を濁した。
「この煙では彼も動けない筈」
イースは淡々と語る。
「ナら光条で煙ゴト薙ぎ払うカ」
ベルラに断るも無しにロング・ビーム・ランチャーを構えさせるフェール、その瞬間
ドンッ
テムジンCが煙を裂くかのようにジャンプする。
「ウカツ過ぎるよナ」
直ぐさま飛び上がったテムジンに砲口を向け光条を放つ。が、光条は蒼空に消え行く
「飛行回避!?テムジンが!?」
アグレッシヴの面々の目に映ったテムジンは空を飛んでいた。
「イース!マイクロ・ミサイルだ!」
ベルラが叫ぶ。
「わかった」
マイクロ・ポットが射出され、分裂しマイクロ・ミサイルが放たれる。ワイズ機に向かいマイクロ・ミサイル達が飛ぶ。
「撃ち落とすだけだっ」
ワイズの言葉に呼応するかのように軽量型サブマシンガンを撃つテムジンC。
ドドドドドッ
撃ち落とされたマイクロ・ミサイルの爆発にテムジンCの姿が消えていくベルラは辺りを警戒した。
「(どこに降りる...)」
正面、岩の高台に目が止まる。と、同時にテムジンC足が煙からかい間見えた。
「(頂上に降りる気か!)」
直ぐに指示をだすベルラ。
「全機、高台頂上一斉攻撃!着地する所を落とす!」
「了..」
「ワかっ.」
二人の返事が途切れる。
「どうした!?」
問うベルラ。しかし返事は無い。ベルラは機体の向きを変え後ろにいる筈の仲間を見るフェール機はサナシスの駆るフェイ・グレイダーの薙刀で斬り伏せられ、イース機は頭部に刺さった凍矢から広がった氷に包まれて眠っている、遠くに弓矢を携えたルシフュリアが見えた、パイロットはルミナだ。
「馬鹿な!何時攻撃を...まさか指示を出している時に?!」
また機体の方向をかえ今度はワイズ機を見るすでにテムジンCは高台からスライド変形したライフルを片手でベルラ機に向けていた。
「もらった!」
トリガーを引くワイズ。レーザーの閃光がベルラ機を貫いた。


 この日の戦闘訓練が終わり、ワイズは研究基地内自販機の所に居た。
「う〜ん」
悩んでいたその時後ろからベルラが声をかけて来た。
「やあ、ワイズ君」
「あ、ベルラさん今日はどうも」
缶ジュースのスイッチを押しながら答えるワイズ。
「少し、話しいいかい?」
自販機横のベンチを指しながら言う。
「ええ、構いませんよ」
缶ジュースを開けずに座る 。
「すると散開したのは彼女達機体に慣れてもらうためだったと?」
驚いたように聞き返すベルラ。
「そうですよ」
「囮と時間稼ぎもその為か...」
「ええ。彼女達に賭けたんですよ、成功してよかったと内心大喜びです」
顔は苦笑いのワイズ。
「(賭けだと?冗談じゃ無い...確信や自信がなければいくらリーダーとて囮などできるか?ましてやあの状況で)」
ベルラは自分が相手をした男に恐怖に近い感情を覚えた。
「君には...勝てないかもな」
ベンチから立ち上がり言うベルラ。
「?」
「失礼した」
歩きはじめるベルラ。
「お互いにがんばりましょうね」
不意にワイズが言う。
「!?...ああ」
ワイズの言葉に驚きつつ返事をし、去って行くベルラだった。
ベルラが視界から消えた後天上を仰ぐワイズ。
「(なぁんでライバル励ますかね...俺は)」
候補生同士はライバルと言っても過言では無い。
「(治らんな...性格)」
やっとジュースを開けるとほんの一口飲む。
「ハァ」
溜息をつくと手から缶が消えていた。
ゴクッゴクッ
「サナシスさん?どしたの」
「喉渇いたらワイズ君がジュース持ってたから分けてもらおうかなってね」
右に座り言うサナシス。
「いいけどさ、間接・・・してる」
「え?」
飲む体勢で缶を見るサナシス。また顔が赤くなる。
「それあげますよ、別の買うからって?」
「よかったら、これどうぞ」
と左に座ったルミナが別種類の缶ジュース差し出す。見ると既に開いている。
「いいの?」
「はい、もらってください」
「ありがとうね」
と笑顔で返すワイズ、すると
「は、はい!」
こちらも顔を赤くするワイズは立ち上がりベンチに向かい合うように立ち2人の顔を見ると
「二人とも風邪?」
と聞く。
「ち、違うわよッ!」
「ち、違いますッ!」
と返された。


通路の曲がり角から見ていたミシェーは

「あの子達の物語は進むのかしら...」 お疲れ様とねぎらうつもりだった言葉のかわりに、独り言を言い自室へ向かって歩いてその場所を後にした。


第四話「進まない物語」 終