第12話「First stage last encounter トラブル・スラッシュ」 中編


「(…まだ死ぬなよ)」
「どうかしましたか?特尉」
クェウが気になって声をかける
「なんでも無い。行きますよ」
ストラグルがそう言うと、兵士たちが気絶した仲間達を起こし歩き始める
「ワイズ…」
秋草がワイズに駆け寄ろうとする
「秋草」
カリジスが呼び止める
「貴様はこっちの人間だろうが」
リヴォルバーを向けて言う
「ッ…」
秋草がうつむいて唇をかむ
「どういうこと!?秋草!」
冬花が言う
「…」
秋草は答えない。答えられない
「今俺が言ったとうりだ。秋草はスパイだったのさ。俺らと同じでな!」
そしてカリジスが笑う
「本当なんか!?秋草はん!」
夏樹が聞く
「…」
ただひたすらうつむく秋草
「答えなさい秋草!」
冬花が叫ぶ
「うるせぇぞ!!」
リヴォルバーを冬花に向け直すカリジス
「やめて!冬花達まで巻き込まないで!」
秋草がカリジスに言う
「ならさっさっと歩け!親がどうなってもいいのか?」
首をクイッと動かし歩くことを促す
「…解った」
秋草が悲しい目をして兵士達と同じ方へ歩いて行く
「(ゴメン…みんな)」
そして一度だけワイズに振り返る
「(ゴメンね…ワイズ)」
そう心の中で叫ぶと、秋草は涙を隠しながら走り去る


<屋外>
「何…あのVR」
兵士の追撃を逃れて屋外から地下に向かおうとしていたミシェーが滑走路に居るVRを見て驚く
「アファームド?でも…随分外見が違う」
倉庫の物陰から隠れて望遠カメラで見る
「ん?」
輸送機に向かう数人に気付く
「ストラ候補生?…って言うかジハードの子達…?」
なんであんな所にと思うミシェーは、望遠カメラをストラグルに向ける
「どうも連行されてるってみたいじゃ無いはね…」
読唇術(相手の唇の動きで話の内容を掴む方法)でストラグルが指示を出している様子をうかがう
「(彼等が…スパイだったってことか)」
まんまとしてやられたと言う顔をするミシェー
「(早くハンガーに行った方がいいみたいね)」
何度目かの胸騒ぎを覚えて走るミシェーだった



<地下ハンガー>
「ワイズさん!ワイズさん!」
ルミナ達はストラグル達が去ってからずっとワイズに声をかけている
「クイマなんとか…この手錠はずせ…ないのか?」
ゼロが膝を付いたまま聞く
「ツールがあればなんとかなるかもしんねぇが」
手錠を見ながら言う
「お前が一歩も歩かないで…はずす方法だ。正直この電撃はシャレにならない」
ゼロが続ける
「まだ体がしびれて…やがるからな」
と両手を上げてみせようとするが
「あがんね…」
と言葉をこぼす
「喋らず休んでな、ゼロ」
クイマが心配そうに言う
「ああ…」
ゼロはワイズの方に頭を向ける
「(さて…歩く振動で作動するみたいだから…床に叩き付けて壊れる程もろくも…って言うかその前にシビレるか)」
クイマが再び手錠を調べる
「クイマ!」
サナシスが遠い位置から話かける
「何?」
視線を手錠から離さず問いかえす
「もうちょっと急げ無いの!?ワイズが死んじゃうかもしれないのにッ!」
半分泣き声になりながら言うサナシス
「これでも急いでんだよ。集中したいから話かけるな」
相変わらず視線を手錠からはずさず答えるクイマ。その彼の眉間には一筋の汗が
「いいからワイズに声かけとけよ。あっちに行かないようにな」
クイマが言うあっちとは死んだあとに行く所だ
「縁起でもないこと言わないでッ」
と叫ぶとワイズに向かって声を出すサナシス
「…たしかに縁起でもねぇな」
クイマがぼそりとまた視線を手錠から外さず言う
「(…やっぱツールなきゃ開けられもしねぇぜ)」
クイマが心の中でそう漏らした時
「クイマはん」
近くに居た夏樹が声をかける
「何?」
この返事も視線はそのまま手錠だった
「ツールならあるで」
「え?」
クイマがその言葉を聞いた瞬間に夏樹を見る
「これや」
夏樹がツールセットを見せる
「これやって…これワイズから君へのプレゼントじゃん」
クイマが参ったように言う
「流石にこれは使えねぇって。第一君まだ一度も…」
使って無い、と言おうとした時
「そんなこといっとる場合!?ワイズはんの命かかっとるんやで!?」
夏樹がすごみを効かせて言う
「…解った。ありがたく使わせてもらう」
スッとツールへ手をのばすクイマ。その時
「ワイズさん!?」
ルミナが一際驚きの声を出した
それをトリガーにしたようにその場にいた者達の視線がワイズに向かう
「…」
そのワイズは血塗れの姿のまま無言で立ち上がっていた
「ワイズ大丈夫なのか?」
やっとしびれから解放されたゼロが声をかける。が、
「…」
返事をせずに無言で歩き始めるワイズ
「お、おいワイズ?」
反応は返ってこない
「ワイズさん!その傷でどこへ行くんですか!?」
ルミナが悲鳴じみた声で聞く
「…」
それでもワイズは答え無い
「まちなさいよワイズ!」
「ワイズ様無理をなさっては!」
サナシスと冬花も声を出して止める
「…」
無言のままアウト・サイダーの前に辿りつくワイズ
「!…まさか」
クイマが言う
「ワイズお前…ストラグルを追うのか!?」
「…」
タンッと跳躍してアウト・サイダーのコックピットハッチに取り付くワイズ
「無茶や!ワイズはん!」
夏樹を声をあげる
「やめるんだワイズ!」
いつもは物静かに黙っているイースも声を出して止める
パシュッとコックピットハッチが開く
「その出血じゃいつ死ぬかわかんねぇんだぞ!」
ゼロが言った
「仇打ちだってする必要は!」
ガシュッ…
ワイズが乗り込んだコックピットハッチがゆっくりと閉まる
「無…」
彼等の言葉はワイズには届かなくなった



<滑走路>
「退屈だ」
滑走路にいた事後処理班の敵VRのパイロットがつぶやいた
「…ん?」
地下ハンガーからの通路から一機、機体が上がってくる
「バカが上がって来たな…オイッ」
周りに居た二機に声をかける
「仕掛けるぞ」上
がってきた機体を見つけた奴がそう言う
「いいのか?命令には無かったが」
右に立っていたVRパイロットが通信で言う
「止む終えなく迎撃しました…でいいだろ」
最初の奴が機体のアファームド・ジ・アタッターを構えさせる
「それもそうか」
左に立っていたVRのパイロットが言う
「行くぜ!」
最初の奴があっと言う間に上がってきたVRにバタフライ形のカッターで斬りかかる
「一世代型と二世代型の違いを見せてやるッ!」
アファームド・ジ・アタッカーが右真横にバタフライ型カッターを振ると、上がって来たVRは真紅の光を残して難なくしゃがんで回避した
「何!?」
アタッカーのパイロットがこう漏らした時には、真紅のビーム・レイザーが、アタッカーの両腕足を斬り捨てていた
「馬鹿な!テムジンもどきにこのアタッカーが…」
アタッカーのパイロットが言い終わる前に
ズジャアアア
CBRの銃身(刃身)を当てて倒れたアタッカーの頭をビーム・レイザーが溶かす
「!…」
その場にいたのこりの敵パイロットはそれを見て戦慄した
「く…近距離では不利だ!遠距離攻撃でしとめる」
アファームド・ジ・コマンダーのパイロットが頭を振り、思考を切り替えてから、指示を出つつガン・ランチャーを構える
「り、了解!」
アファームド・ジ・ディスラプターのパイロットが返事をしながら両肩のショルダ・ーランチャーと両前腕のトライデル・ボックス・ランチャーを構える 「ファイヤッ!!」
コマンダーのパイロットがそう指示を出すと、アファームド二機の火機がテムジンもどきに集中する
数分後攻撃が止み、煙がゆっくりと開けて行く
「やったか!?」
コマンダーのパイロットは恐怖とともに焦っていた。テムジンの機体性能を考えてもあのテムジンもどきにはこの攻撃が効くのかと
「(…くたばっていてくれ!)」
コマンダーのパイロットは切に願った。しかし、その願いはマシンガンの音にかき消された
ガガガガガガガガッ!
「!」
真紅の光をまとった弾丸がコマンダーの真横を通りすぎ、ディスラプターの武装と頭部を打ち抜く
ドガシャア!
ディスラプターが仰向けに倒れこむ
「馬鹿な…たかがテムジンもどきの攻撃にVアーマーがにこうも簡単に!?」
倒れたディスラプターに移していた視線をマシンガンのついた左前腕を突き出したテムジンもどきに向け直すコマンダー
「この…化け物があああああ!」
ターミナス・マチェットを引き抜き、テムジンもどきに向けて走る
「邪魔だああああああああああ!!」
アウト・サイダーのパイロットが吠えると、斬撃がコマンダーの首を空中に舞わせ、その首が滑走路横のまだ雪の残る地面に落ちた



<数分後、ある街の上空付近を飛ぶ輸送機>
「ストラグル特尉!」
輸送機のサブパイロットが焦って話しかける
「何ですか?」
いたって普通に問い返すストラグル
「ハッ、例の基地に留めておいたアファームド部隊との連絡が途絶えました」
敬礼をしてから報告をするサブパイロット。その表情は焦ったままだが
「おいおいマジか?」
一早く反応したのはカリジスだった
「スペック考えてもあの基地にある機体じゃ到底相手になるとは考えらんねぇぜ…」
深刻な顔をするカリジス
「ミシェー・マェンでしょうか?」
撃破したのはミシェーかと思ったクェウが言う
「通信が途絶える前に[テムジンもどき]と[化け物]、この二つの単語しか聞きとれませんでした」
とサブパイロット
「そんな機体が居るとしたら、一機しか居ないですね」
ストラグルが言った
「マジか!?パイロットにあれほどの重傷を負わせたのに!?」
とカリジス
「た、大変です特尉!」
そのサブパイロットがまた焦った声を上げる
「今度はなんです?」
「VRが一機、もの凄いスピードで飛行してこの輸送機団に向かって来ています!」
「それはどのくらいで我々に追いつきます?」
「このままの速度なら10分程かと…」
そして付け加える
「向かって来ているVRの速度が上がらなければ、ですが」

「そうですか」
と立ち上がるストラグル
「私の機体をスタンバイさせておいて、正解でした」
そして笑うストラグル
「特尉?」
とクェウ
「そのVRの目標はおそらく私ですから」



<輸送機後部VRデッキ>
「…」
秋草がキャットウォークの隅で体育座りをして黙っている。その表情はとても暗い
「(こんなことになるなんて…)」
「ここに居たんですか」
ストラグルが自機のテムジンのコックピットハッチに手をかけて言う
「…」
秋草は何も答えたくなかった
「そういえば、よかったですね」
ストラグルが目を見開いて言う
「ワイズ君、生きているみたいですよ?」
「!」
秋草がそのセリフに反応してストラグルを見る
「フフフ…」
そこに冷笑を残してコックピットハッチを閉めて、シートに座るストラグル
「…行きますか」
ストラグルのテムジンについていたハンガーロックが解除されると、輸送機のハッチが開き、雪と強風が入ってくる
「…ッ!」
秋草が思わずキャットウォークにつかまる
「ストラグル・ノクテュルヌ、出る」
そうストラグルは通信機に言うと、両手に武器を持ったテムジンを輸送機のハッチから街へと向けて落下させた
輸送機のハッチが閉まり始める時に
「…ワイズ」
立ち上がった秋草が涙を流して嘆いた



<数分後、ある街>
「…来ましたか」
いつ止んで、いつまた降り始めたか解らない雪の中、黒と青黒でカラーリングされたテムジンが街のビル群へ真紅の光が来るのを待ち見る
「G・B(ガイスト・バースト)を発動させてまで追ってきたようですね?ワイズ・スカイフレン」
この前よりも強い真紅の光に包まれたアウト・サイダーが構える
「貴様は…」
切られた胸と右肩から出た血は多量に朱黒く服についている。それほどの血を流したにも関わらずワイズは、ツインスティックを握りしめ、アウト・サイダーのシートに座っている。右目を金色に変えて
「殺す!」
その言葉とともに宙を滑るアウト・サイダー
「フ…」
何無くビーム・レイザーをビーム・ソードで止めるストラグルのテムジン
「(一定時間経過によるG・Bの出力低下…しかし!)」
じょじょにストラグルのテムジンのビーム・ライフル(ビーム・ソード)が溶ける
「(こちらの武器が持たないかッ!)」
ビーム・ソードを手放すストラグルのテムジン、直後にそのビーム・ライフルが大爆発する
「…」
煙がアウト・サイダーの目をくらます
「はあああッ!」
ワイズが気合いを叫ぶと煙が一気にアウト・サイダーの周りから散る
「何処だ!?」
ビル立ち並ぶ辺りを見渡すアウト・サイダー



「…」
アウト・サイダーからかなり離れた十字路に立つストラグルのテムジン
「試作品だが持ってきて正解だったか」
十字路の真ん中に刺さった大鎌の様な武器に手をかける。見るとその武器は出撃の際に持っていたもう一つの武器だった


第12話「First stage last encounter トラブル・スラッシュ」中編 終