第12話「First stage last encounter トラブル・スラッシュ」 前編


<廊下>
「これで18人目か」
蒼空を右手に持ち、倒れた兵士を見ながら言う
「(秋草さん大丈夫かな…)」



数分前
「助けに行かないと!」
ワイズが走りだそうとしたとき
「待て」
秋草がワイズのパーカーについている帽子(ずきん?)を掴む
「ぐえっ」
掴まれてえりが締まり、一瞬だが苦しむワイズ
「なにすんだよ!」
口調がいつもと違うワイズ
「落ち着け、お前一人でどうにかなることか?」
それに気付いたのか冷静に諭す秋草
「だからって何もしないのかよ!?」
それでもなお語気が荒いワイズ
「無策ではどうにもならないと言っているんだ!」
ワイズの胸ぐらを掴み言い返すように語気を荒くする秋草
「ならアンタには策があるのかよ!」
先ほどよりも語気が荒いワイズ
「一つだけ思いついたのがな…」
秋草の口調暗くが変わる




「(俺が囮になってかき回して秋草さんがみんなを救出する…か)」
壁に背中をつけて通路の様子を伺いながら思う
「(…やるしか無いか)」
カツカツ
足音が近づいてくる
「(敵か?)」
壁に背を付け聞き耳を立ててみるワイズ
「しかしストラグル特尉の指示は凄いな」
兵士が言う
「(ストラグル特尉…?)」
「まだガキなのにな…スパイまでしながらあっと言う間にここを抑えるとはな」
もう一人の兵士が答える
「(スパイ…!)」
ワイズの右手に力がこもり、右目が金色に揺らぐ
「あいつの下に居れば簡単に昇格できるかもな」
ハハハと笑う三人目の兵士
「しかしあいつもミス、するらしいじゃないか?」
「あー捕獲予定だった輸送機撃墜したって」
「(!!)」
ワイズが驚きに固まり、蒼空の刀身が紅に変わる
「なんでもリモートコントロール機のベルグドルで市街地戦やっただかってやつか」
ダッ!
T字路合流地点からワイズが目に捉え切れないスピードで飛び出す
「!」
三人目の兵士の頭にこの文字が浮かんだ時には、先の二人は倒れていた
「19…20…」
ユラリと三人目に近づくワイズ。その彼にいつもの雰囲気は無い
「ヒ、ヒイイイ!」
兵士がワイズを見てアサルトライフルを落とししりもちをする
「答えろ」
ワイズの右前髪が逆立つ
「命は…命だけは!」
そう言いながら腰にあったハズのハンドガンを探す兵士
「答えろ」
左手を前に出すワイズ。その手にはいつの間にか兵士のハンドガンが
「わわわ、わかりまししした」
いよいよもってロレツが回らなくなった兵士
「さっきの話は全て真実か?」
ゆっくり近づきながらと訪ねるワイズ
「そそそそそうです!」
ガタガタと震える
「輸送機の話は?」
「は…?」
予想外すぎるワイズの返答に変な声で答える兵士
「答えろ」
まるで狼かなにかの獣が吠えたような声で言うワイズ
「ししししししんじつですッ」
もはや悲鳴の兵士の答え
「そうか…」
ゴトッ
兵士に向けていたハンドガンをそのままの姿勢で捨て落とす
「たたたたたすけ」
「寝てろ」
バキャッ!
言い終わる前に蒼空の紅いミネが兵士を気絶(ねむ)らせた
「…21」
そう言うと走り出すワイズ。そして無表情でこう言った
「ストラグル…!」



<地下パーティ会場(ハンガー)>
パシュッ
とキャットウォークのドアが開く
「…」
ゆっくりとワイズがそこから姿を見せる
「ワイズさん!」
ルミナが声を出すと
ザワザワッ
と全員の視線がワイズへ向かう
「ルミナ!敵に教えてどうするのよ!」
サナシスが小声で怒る
「ご、ごめんなさい」
焦って謝るルミナ
「サナシス…」
冬花が話かける
「何よ!」
サナシスが勢いよく冬花に振り返る
「ワイズ様の様子…おかしく無い?」
「ワイズの様子?」
改めてワイズを見てみるサナシス
「…ワイズ?」
サナシスが思わず見間違える程にワイズの雰囲気が変わって居た
「クェウ」
ストラグルが呼ぶ
「はっ!構え!」
クェウは返事すると兵士に指示を出す
兵士達は次々にアサルトライフルをワイズに向ける
「逃げてワイズさん!」
ルミナがそう叫ぶ
「撃て!」
キャットウォークのドア付近に銃撃が放たれる。しかしワイズはそこには居なかった
「どこへ!?」
「いねぇぞ!」
ひとしきり撃ったあと兵士が口ぐちに言う
スタンッ
蒼空が紅い光の帯を引きながらワイズと共に降りてくる
「…なっ」
その場に居合わせた人々は口ぐちに先のような驚きの言葉を吐いた
ワイズは、13mの高さからジャンプして下りて来たのだった
「な、なめやがって!」
「俺達のド真ん中に降りてきたことを後悔しやがれ!」
彼等の言う通り、ワイズは敵兵士のド真ん中に立っている
「微塵にしてバラまいてやるぜ!」
兵士達が個人個人に接近用武器を構える
「どけ」
ワイズがそう言うと一番近い兵士に素早く突進する
「うわぁ!」
その兵士が間抜けた声を出した瞬間に
バキッ
と鈍い音がして兵士が倒れる
「て…てめえええ!」
一人がそう叫び、5人が若干ばらばらに飛びかかってくる
「邪魔するな」
そう言うと最初に正面に飛び付いて来た奴の腹に深々と右足で蹴りを入れ、やや遅れて二番目に左後ろから来た奴には体制を立て直して斜めに鋭く飛び肘打ち、着地後残る三人はワイズが元居た場所に着地したがすぐさま蒼空のミネによりダウンした(この間約一秒強)
「ば、化け物か?こいつは」
3〜4m離れた兵士の一人がそう言う。するとワイズがその兵士相手に蒼空を凄い勢いで袈裟に振る
「ぐあっ!?」
そして兵士はその場から5m程吹っ飛び、テーブルに激突する
「…あいつ何をしたんだ?」
クイマが言う
「死生戦術流…閃陽」
ストラグルがそう言い、笑う
「…」
ワイズがストラグルをにらむ
「フ…」
ストラグルが腰のベルトから吊っていた剣に手をかける
「その前に俺が相手だ!」
カリジスがでしゃばり前へ出る
「…」
ワイズが無言でカリジスの横を通ろうとする
「待てよ」
カチャ!
リヴォルバーをワイズの横顔につける
「どうせならあの時みたいに一撃で俺を倒したらどうだよ?あのシュミレーターの時みたいによぉ」
グリグリと銃口をすり付けてくる
バギッ
蒼空の塚が当たった鈍い音が、カリジスの体内に響く
「う…が…はッ」
ドサッ
「退いてろ」
ストラグルから視線を離さずにカリジスに言う
「てめ…え…」
意識を失わず苦しむカリジス
「クェウ、手を出すなよ」
そう言うと鞘から剣を抜くストラグル
「はっ」返事をするクェウは一歩下がる
「さて…」
ストラグルが両手で構えると同時に
「…」
右前髪が逆立ち、金の右目があらわになるワイズ。右手の蒼空が更に紅に包まれる
「オマエは…」
チキッ
ミネをかえし、刃を前に向ける
「殺す!」
言うとともに走り出すワイズ
「できるかな?」
ストラグルも前へ走る
ガギィン!
互いの初撃がぶつかり、つばずりあいになる
「どうせなら技の一つ二つ見せて貰いたいね」
ストラグルがつばずりあいから右足で蹴りをくりだす
バシッ
ワイズ左腕で受け止め、右足でストラグルの右肩を蹴りかえす
「ぐッ」
ストラグルが状態を崩す
その隙にワイズがバックステップで距離を置き、技を仕掛ける
ヒュンッ
「この突き…流牙か」
半身をずらしなんなく避わしたストラグルが冷笑しなから言う
突き出した刀をそのまま横に振るがバックステップでかわされる
「次は私がッ」
ストラグルが鋭く踏み込みながら袈裟斬りをくりだす
ダンッ
真上に飛び上がり避わすワイズ。そして刀を両手で構えて落下する
「襲斬…」
ストラグルがそう言うと前に走る
ズガァン!
床にヒビの無い斬撃の跡。無駄の無い攻撃は余計な破壊をしないと聞くが、ワイズの放った今の「襲斬」はまさにそうだった
「…」
ワイズがゆっくりと構え直る
「相当な威力ですね…」
ストラグルが素直に感想を述べる
「行きますよ」
ストラグルの表情が一気に代り、また駆け出す
そして剣線がハンガーに音を響きわたらせる



「ワイズめぇ…」
カリジスがよろよろと立ち上がり通信機を取り出す
「おいてめえ…今スグここにきやがれ」
そう言いながら刀を振るワイズをにらむ
「みてろよ…」
ニヤリと口を曲げるカリジス



「ね、ねぇ」
サナシスがクイマに話しかける
「あれ…本当にワイズなの?」
その目はおびえている
「…俺にもよくわからねぇ」
クイマは驚きの声しか出せない
「ゼロ君は?」
「ワイズだと思うが…」
少し言いにくそうに言うゼロ
「が?」
「あんなにキレてるところは見たことが無いな…」
と言うゼロ
「あれはたしかにワイズ様よ…」
冬花が言うと、ほぼその場にいた研究基地の人が冬花を見た
「冬花さんには解るんですか?」
ルミナが聞く
「ええ…」
「何故ですか?」
「昔…」
冬花が言いかけた時
「秋草はん!?」
夏樹が大声で驚く



ガギィン!ギィン!ギャィン!
目の前で刀と剣がぶつかる
「(こいつは!こいつだけは!)」
手に更に力がこもる
「ワイズ!」
右斜め前に居たカリジスが声をかけてくる
「見ろ!」
「…」
カリジスの左手に構えたベレッタの先にはすぐ横に無言で立つ秋草が
「(秋草!?)」
剣線を展開したまま驚くワイズ
その一瞬
ダァン!
「!」
ワイズの右肩をカリジスのリヴォルバーの弾丸が貫き、姿勢を崩す
そして
ズシャッ!!
「ぐ…ぁ!」
ドサア!
ガチャン!
右肩を打たれ、胸を左斜めに斬られたワイズは、大量の血と蒼空と共に仰向けに倒れた
「ワイズさん!」
「ワイズ!」
「ワイズさま!」
「ワイズはん!」
「ワイズ!!」
ルミナが、サナシスが、冬花が、夏樹が、そして秋草が叫ぶ
「…貴様あああああ!」
ゼロが手錠を付けたまま飛び出そうとする
「落ち着けよゼロ!」
クイマが抑える
「放せクイマ!!」
暴れるように騒ぐゼロ
「やめるんだ」
イースが力づよく止める
「君が出ていってどうにかなるのか?」
手錠のついた腕でゼロを抑える
「冷静に言ってる場合かよ!放せよ!」
残った兵士がゼロにアサルトライフルを向ける
「やめておきなさい…」
ストラグルが剣を鞘にしまいながら言う
「この野郎ッ」
クイマとイースを降りほどき、走り出すゼロ
その時、ストラグルが剣の塚に付けていたスイッチを入れる
バリバリバリバリバリ
「うわあああああ」
ゼロが絶叫して、ガクッと床に膝を折る
「今初起動させましたが、みなさんのその手錠には電気ショックを流す装置がついているんですよ。動くとオート起動ですから、一歩も動かないことをお薦めいたしますよ」
ストラグルがゼロを軽く見下す
「く…あ…」
しびれながらもにらむゼロ
「出力もなかなか高いでしょう?数時間経過すれば手錠事態が解除されますから大人しくしていてください」
そう言うとカリジスの横まで歩くストラグル
「何故撃った?」
「特尉が苦労していたからさ。手助けしたのにそんな言い方はないんじゃないか?」
ヘラッと笑いながら両手にそれぞれ銃を持ったままお手上げポーズするをカリジス
「危うく目標を斬り殺すところだった…」
そう言うとギンッとにらむストラグル
「ヒッ…」
とたんに恐怖にゆがむカリジス
「貴様あの時も私の足を引いたな…」
剣の塚に手を置くストラグル
「す、すいません…特尉…」
後ずさりしながら言うカリジス
「フンッ…」
今度はクェウの所へ向かうストラグル
「データ抽出と輸送機は?」
いつもの細目に戻しながら言うストラグル
「データ抽出は終了しました。輸送機はまもなく到着します」
「いい時間潰しになったな…気絶している兵士を起こしてください。そして全員に滑走路へ召集を」
「はっ!」
敬礼をするとどこかへ走っていくクェウ
ストラグルは後ろを振り返り、ワイズを見る
彼の左目は光を失っていたが、右目は金色の光を失わず天井を見ていた


第12話「First stage last encounter トラブル・スラッシュ」前編 終