第11話「クリスマス・パーティ」 前編



<研究基地地下VRハンガー>
電気も何もついていない場所に、一筋の照明が檀上の一人の少年をさす
「えーっと...」
普段着慣れないタキシードのような服を着たその少年がマイクを持って何かを言い始めようとする
「本日はお日がらも良絶好のパーティびよりで...って何言ってんだ俺?」
あがっているのか何を言っているのか解らない彼は、顔を赤くして自分に突っ込む
「早く始めろー!」
「あがり過ぎだー」
などと野次のようなものが飛びかい始める
「あー...っと{どーもまいるね}」
そうされるとさらに焦る彼。そしてマイクはこの声も全部拾う
そんな中
「あんた達静かにしなさいよ!ワイズー!がんばれー!」
サナシスが野次のようなものを一括しながら応援をくれる
「サナシスさん!貴方も静かになさいな!ワイズさまー!!」
サナシスに文句を言いながら自分も大きい声を出して手を振る冬花
「二人とも静かにしてくださいッ」
とルミナがまたも涙を溜めながら二人を止めようとしているのがワイズの目に入る
「ええやんルミナはん!せっかくのパーティなんやし!」
夏樹がルミナを諭す
「だがあまりハメを外すのもどうかと思うが...」
秋草が夏樹に少し心配そうに言う
「あの二人はいつもとかわらんとちゃいますー?」
夏樹が冬花とサナシスを指差す
「...同感だ」
納得と言う顔で言う秋草
「そんなこと言わないで止めてくださいー!」
と更に焦るルミナ
「ワイズ君、そんなのいいから早く始めなさーい!!」
ミシェーが酔っているかのように声を張る
「{あはは...}」
手を振りつつ一際目立つ女性陣に呆れるワイズだが
「{おかげで緊張は取れた...かな}」
マイクを握り直し、まるで歌をシャウトするように言い始める
「まあとにかく!せっかくのパーティなんだからみんな楽しんでくれいッ!」
ワイズが言い終わるを合図にしたかのように、照明が眩しくつき始め、多くのクラッカーが鳴り放たれる
「わあああああ!!」
パーティ会場と化した研究基地地下VRハンガーが、一気に湧いた


「ふぃ...」
壇の幕裏に引っ込んだワイズはパイプイスに座り、溜め息を漏らす
「司会おつかれさん!あのまま歌うのかと思ったぞ?」
クイマが明るい声をかけてくる
「歌うかよ...それに司会つったって始まりの挨拶と終了の挨拶しかしないんだけどな...」
野次のようなものを思い出し愚痴るように言葉をだす
「じゃあなんだ?全部のプログラムの司会やりたかったのか?お前」
意地の悪い言い回しをする。(司会はプログラムごとに違っていて、個人の負担を軽くしている。それにそちらの方が一つ一つ充実したものになるからだそうだ)
「...冗談よせやい」
顔を真っ青にして左手を横に振り言ながらう
「にしてもその服派手だな?タキシードか?」
見て、笑いながら言う
「親にこれの司会をやるって連絡したら送って来たんだ...」
連絡しなきゃよかったと言う顔
「じゃあ着なきゃいいじゃないか」
もっともである
「せっかく送ってくれたんだから着ないのもなんだかなってな。もっとも、これ以上派手なら着すらしなかっただろうがな」
自分でも服を見ながら苦笑いする
「お前らしいな。でその格好で出るのか?パーティ」
ニヤリと笑うクイマ
「...急いで着替えてくる」
すっくと立ち上がり言う
「そうかい。ま、それがいいかもな」
クイマも立ち上がる
「次お前の司会だっけか?」
思い出したように聞く
「次の次だ。確認しに行くだけさ」
野球帽を簡易テーブルに投げ置く
「そっか、がんばれよ」
「お前は急げよ」
互いに笑い合いながら別方向へ歩き出す


<ワイズの自室>「{パーティだからって、似合わない格好はしない方がいいな}」
腹部にポケットのついた青いパーカーから頭を出しながらそんなことを考える
「さてと...」
携帯電話をはいている黒いズボンの沢山あるポケットの一つに入れ、大きめの背負い鞄を担ぐように持ち、腰にさした蒼空を確認し、自室の出口まで早足で向かう
「ん?」
胸元にいつもあるはずの感覚が無いことに気づく
「いっけね!」
先程着替えていた場所に戻ると
「これ忘れるとこだったぜ」
とドックタグを掴む
「...よし」
いつもやっているようにボールチェーンを外して、首にまわしてからつけなおし、ドックタグを服の内側に入れる
「急いで戻らなきゃな」
置いた大きめの背負い鞄を担ぎ直し、一気に部屋を出る
「一応部屋ロックしとくかな?」
などと言っていると携帯が振動する
「いッ?」
携帯を取り出すとメールが計3件。ルミナ、サナシス、冬花の三人から一通ずつ来ていた。メールの内容はいずれも「今どこにいるのか」と言うもの(文はそれぞれ違うが)
「...いそげ!」
などと言い、ものすごい速度でパーティ会場に向かうワイズだった


<地下への階段>
「よっ、とっ、はっ」
段飛ばしで下りるワイズの前に通路角から人影が急にでてくる
「わわわわわわ!」
段飛ばしの勢いもあり、状況的に人影が誰か確認できなかったが、その人影にぶつかるまいと、残り5段あった階段から斜め上空にハイジャンプする
タンッ
「{やば!高く飛びすぎた!}」
みるみるうちに天上がせまる。あいた左手を天上に向けてつけて、天上にぶつかるショックを和らげ、そして床になんとか着地する
「...」
後ろを振り返り、飛び避わした人をおそるおそる見る。普通の人ならばワイズの脚力を見て驚く筈だからだ
「飛び避わす程私が恐いのか?」
秋草が階段二段目から眉ピクピクさせながらワイズを見ていた
「いや、段飛ばしで下りて来たから急に止まれなくてとっさにね...」
相手が秋草だったことにホッとしつつも焦りつつ弁解をするワイズ。(何故ホッとしたのかと言うと秋草は以前にワイズの脚力を見ている{10話参照}からだ)
「それはそうと秋草さんは何故ここに?」
話を変えよと聞く
「貴様のせいだ」
階段を下りながら近づいて言う
「貴様が居なくなったから私も貴様の捜索に駆り出されたんだ」
ワイズの顔を指さして、目線を合わせ、強く言う秋草(指とワイズの顔の距離およそ0.5cm)
「捜索ってそんな大袈裟な!それに俺ただ着替えとこれを取りに部屋戻っただけですって!」
大焦りのワイズ
「これとは...その鞄か?」
秋草の目線が背負い鞄に逸れる。指はそのまま、だが
「正確にはこれの中身なんだけどね」
秋草の指にいまだ焦りながら答える
「なんなのだ?それは」
指を下げて問う
「会場に行ったら教えますよ」
笑顔で返すワイズ
「?」


<研究基地地下VRハンガー>
「ワイズどこ行ってたの?」
戻って早々サナシスから言葉をぶつけられるワイズ
「ちょっと自室にね」
そう言うと、鞄の中から何かを取り出す
「はい、クリスマスプレゼント」
と笑顔で言いながらサナシスにラッピングされてリボンのついた小箱をサナシスに渡す
「え!?わ、わわわわわ私に!?」
突然訪れた好運に動揺しまくるサナシス
周りでは
ルミナは泣き顔でワイズを見つめ。冬花はサナシスを睨み。秋草は「なるほど」と言う顔をして。夏樹は意外そうな顔をする。そして殆どの男達が殺気をワイズに向けていた
「(わ、渡しにくい...)」
と心底思うワイズ
「あ、開けてもいい?」
「どうぞ」
あっと言う間にリボンとラッピングが解かれ、小箱のふたを開かれる
「わあ!」
小箱の中にはガラス細工の猫の置物が、大事そうに入っていた
「ありがとうワイズ!」
満面の笑みをうがべるサナシス
「どういたしまして」
ワイズも笑顔で返す
「かわいい」
サナシスがガラスの猫に視点を戻す
するとワイズはルミナの元に歩く、そして
「はい、ルミナさん」
新に鞄から取り出した細い箱をルミナに差し出す
「ふぇ!?」
ルミナ半泣き顔でが驚きの言葉を出すと同時に
会場の男達の空気がまた歪む
「(更に渡しにくい...)」
とワイズ
「私にもいただけるんですか...?」
おずおずと聞くルミナ
「もちろん!」
笑顔を崩さないワイズ
「ありがとうございます!」
細い箱を持ったまま深々の頭を下げるルミナ。まるで賞状でも貰い受けたようだ
「そ、そんな。頭下げなくても!」
焦るワイズ
「あ、ごめんなさい」
口にワイズからもらったプレゼントの細い箱を当てて照れ笑いするルミナ
「あの...開けても?」
「どうぞどうぞ」
また笑顔のワイズ
サナシスと違い、ゆっくりと丁寧にリボンとラッピングをといて箱を開けるルミナ
「...ペンダント!」
細い箱の中にはいっているアンティークなデザインのペンダントを見てルミナが嬉しそうな顔をする
「よかった喜んで貰えて。ちょい古臭いかなと思ってた」
ルミナが細い箱を開け始めた時から声を出すまで難しい顔をしていたワイズの顔がほころむ
なら選ぶなよ、と周りの男達の空気が言う
「とんでもないです!とっても嬉しいです!ありがとうございます!」
ルミナが凄く喜んで御礼を言う
「よかったじゃないルミナ!」
サナシスがルミナに抱き着く
普段ならサナシスの機嫌が悪くなりそうだが、よほど嬉しかったのか凄く機嫌がいい
その様子を見つつワイズは冬花の前に行く
「こういうことでしたのねワイズさま」
冬花がにこやかにワイズに話しかける...しかし何か雰囲気が恐い
「はい、冬花さん」
汗を垂らしながら言うと二つプレゼントを渡すワイズ
そして男達の殺気が彼に向けられる...
「二つですか!?」
驚いた顔の冬花
「言ったでしょ?御礼もかねてって」
ワイズが三度目の笑顔
「わざわざプレゼントとして御礼してくれるなんて...」
冬花が俯く
「え?あ...なんかまずったすか?」
俯いた冬花に心配そうに見るワイズ
「ワイズさま感激ですッ」
っとプレゼントを持ったままワイズに抱き着こうとする冬花
「うあ!」
反射的にのけ反るワイズ。しかしそんなことをしても冬花はかわせそうになかった。が
べしぃ!
サナシスの手が冬花のおでこに当たる
「やめなさいよね冬花!」
サナシスがワイズと冬花の間に割り入っていた
「...なにするんですのサナシス」
パチンッとサナシスの手を叩き剥がす
「なにワイズに抱きつこうとしてんのよ!あんたは!しかもプレゼント二つも貰ってんじゃないわよ!」
サナシスが恐い
「あら、ひがみかしら?自分が一つしか貰ってないからって見苦しいですわよ」
冬花の恐いカウンター
「一つだって心がこもってくれればいいもん!どうせあんたはワイズにねだったんでしょ」
腕組して横目で冬花に言う。やはり恐いサナシス
「あなたじゃないんだからそんなことしませんわよ!これは御礼もかねてるんですから!」
冬花も同じポーズを対象的にする。そしてやはり恐い
「なによ!」
「なんですの!」
と続くケンカ(?)。ワイズはその隙に夏樹の横へ
「ご苦労やなぁワイズはん」
肩をポンポンと叩く
「サ、サンクス...あと、これ」
またもや鞄からプレゼントを出すワイズ
「う、うちにもあるんかいな!?」
流石に驚く夏樹
「ういさ」と笑うワイズ
「なんか悪いな〜」
と言いしっかり受け取る夏樹
「開けてもええか?」
ニコニコとワイズに言う
「ええ、どうぞ」
4度目の笑顔
丁重に素早く開けて行く夏樹
「おおッ!(流石メカニック志望!)」
その様子に感心の声を出すワイズ
「うっわあ〜!凄いはワイズはん!」
夏樹が喜びの大声を出す
ギロッ(周りの男達の死の視線)
「な、なにが?」
視線に痛みを感じながら聞き返す
「これむっちゃ欲しかったツールセットやねん!おおきにな〜」
ワイズの両手を笑顔で握りながら言う
「喜んでもらえれてよかった」
視線が痛いためか半端な笑顔になっているワイズ
「うーん」
不意に夏樹がワイズをじっと見つめる
「どうしました?」
「ワイズはん優しいなあ...うちもモーションかけようかなあ」
少し顔を赤くしながら言う夏樹
「え!?」
耳を疑うワイズ
「ちょいと夏樹!」
冬花がいつの間にか夏樹の横に来ている
「なんや?冬花はん」
普通に聞き返す夏樹
「ワイズさまは私の人、渡しませんわよ!」
冬花の目が、サナシスとの時より恐い
「そんなの知るかいな、モーションかけるのはうちのかってや〜」
少しも圧倒されないで言い返す夏樹
さらに
「そうよ夏樹!冬花に遠慮する必要は無いわ!」
いつ現れたのかサナシスも加わる




第11話 「クリスマス・パーティ」前編 終