第10話「計画と暗躍」 後編


キィィィン!
「(あ、危ねぇ)」 かなりギリギリのタイミングで秋草の刀を蒼空の峯で止める
「よく止めたな」
秋草がフッと笑う
「お褒めに預かり」
少し引つった顔で言うワイズ。頬には汗
「軽い口を叩くな」
秋草の目が変わる。それと共に刀が蒼空から離れ
「そういう口調は嫌いだ!」
力を込めて別の軌道で刀を振り切る
「冗談ですって!」
バック転で辛うじて避わす
「シッ!」
追撃でさらに棒手裏剣を投げ付ける秋草
「っ!」
伏せて避わすが、纏めていた後ろ髪にカスり、何本か短めに斬れる
「あぶなっ」
こればっかである
そしてそう言葉を漏らした直後に
「もらった!」
目の前に秋草の刀が
「(じ、冗談じゃない!)」
急速ハイジャンプで避わす
直後に秋草は驚く。空中に飛び上がっただけに見えたワイズは、秋草が上を見上げた時には、3〜4m離れた天上に屈み込むように足と方手を着き、上から下を見ていた
「(空中で回転した!?)」
秋草とワイズの間で時間が凍りついていた
「ハア!」
気合いと共に天上を蹴るワイズ
「(落下速と蹴速で仕掛けて!?)」
刀を防御の形で構える秋草。だが
ドサッ
秋草の凄く手前にワイズは頭から畳床に落ちた
「...」
驚いて言葉も出ない秋草は、キョトンとした顔でワイズ(痛みで頭をおさえてる)を見る
「格好悪いぞ...お前」
腕組をして目をつぶり、言う
「あだだだ...」
本人はまだ痛みに頭をおさえている
「(あの高さから落ちて、痛がるだけとは...丈夫だな)」
そういう問題か?
ピピピッピピピッ
不意に秋草のブレスレットのタイマー(謙時計)がなる
「どうやらタイム・アップらしいな。手合わせを終えようか」
秋草は少し無骨な形をしたブレスレットのタイマーを止めると、刀を鞘にしまい、体術訓練場隅にある給水場に向かう
「り、了解...」
ようやく立ち上がったワイズも、蒼空を鞘にしまい、同じ場所に向かう
「ふぅ」
秋草は麦茶を手にベンチに座る
キュッ
ワイズは髪を解くと蛇口をあけると
ジャー
そこに頭をもぐりこませる。頭を冷やしているようだ
「うーつめてー!」
いくら設備が整っていようが、体を動かした後だろが、さすがに12月の水は冷たい。というか冷やすのに温かいなら意味はないが。(それにもちろん温度調節もできる)
「痛むか?」
いつの間にか秋草が横に立っていた
キュッ
と、蛇口を閉めると頭を上げるワイズ
「まだ少しね」
と苦笑いする
「...」
秋草がワイズの髪を見たまま止まる
「?どしたの」
「綺麗な蒼色の髪だな」
と秋草が何気なく言う
「...ぷっ」
思わず吹く
「何が可笑しい?」
少し憤慨したのか声が若干荒い
「いや、女の人に髪を綺麗と言われたことなかったから、なんか可笑しくて」
その前に女の人と話できないだろ赤面症ワイズよ
「人が褒めているのに、可笑しいとは何だ」
プイと横を向く
「ごめんごめん。でも秋草さんの緑色の髪の方が綺麗だと思うけどなぁ。俺は」
なにげない一言二言
「!」
位置的に秋草の顔はワイズに見えてないが秋草の顔は赤い
「それよりも!」
話を変えようと声を大きくする
「はい?」
スポーツドリンクを取りに移動しながら返事をする
「体を動かして少しは気が晴れたか?」
ワイズに向き直る。顔は既に赤く無い
ゴクッゴクッ
一定量スポーツドリンクを飲み終えると
「おかげさまで大分」
返事をする
「そうか」
そっけなく言う
「ところで」
今度はワイズが聞く 「なんで真剣で勝負なんですか?」
畳床に刺さったままの棒手裏剣を親指で差しながら
「そちらの方がやり甲斐があるだろ」
普通に返す
「やり甲斐って...」
棒手裏剣が飛んでくる所を思い出すと、冷や汗が出る
「それに真剣勝負でなく、真剣での手合わせだ」
「刀の刃の方で打ち込んで来たのに?」
「お前なら止められると思った。実際そうだったろう?」
「買い被りすぎですってば」
畳床に座りこもうとするワイズ。が
タラララーララララーと携帯電話がまたなる(着信音はまたも天○観測)
「うわっと」
携帯をポケットから出す
「はいワイズですが」
電話にでる
「ゼロだが、そろそろ戻ってこいよ。俺じゃどう指示したらいいか解らない所が騒いでるんだ」
参ったような声で言う
「り、りょーかい」
と肩を落としながら電話を切る
「たはあぁ」
重いタメ息が出る
「戻るのか」
と秋草
「うい」
背中をただして歩き出す
「待て」
秋草が呼び止める
「なんすか?」振り向くと
「うわっとぉ!?」
ハンドタオルが顔に被さる
「せめて髪を拭いて行け。濡れた頭で行くつもりか」
投げてよこしたのはもちろん秋草だった
「ありがとさん」
その場で髪を拭き始める
「急ぐのだろう?そのタオルはやるからさっさと行け」
棒手裏剣の刺ささった所に歩き始める秋草
「いいんすか?なんか悪いすけど」
手を止めて秋草の方を見る
「タオルならまだあるからな。気にするな」
左手に持ったタオルごと手を振る
「でも...うわっ!?」
また今度はマナーモードにした携帯が唸る
「早く行ったほうが無難では無いか?」
棒手裏剣を畳床から抜きはじめる
「ごめん!あと、ありがとう!俺行くね」
と笑顔でワイズは言うと首にタオルを下げ、カタログ右手に持って
パシュッ
体術訓練場から急いで出て行った


「...」
無言で棒手裏剣を片付ける秋草
ビー
先程とは違う呼び出し音がブレスレットから響く
「はい、こちら秋草」
片付け終り立ち上がりながら、ブレスレットに話し掛ける
「俺だ」
通信相手が名を出さずに返す
「何用ですか」
歩きながら声のトーンが急に落ちる
「...露骨に嫌な声だなお前」
相手の声が険しくなる
「当然だ。私はキサマが憎いからなカリジス」
相手はジハードのカリジスのようだ
「名前をだすな。バレるだろ」
焦る
「こちらには誰も居ない」
背中を壁につける秋草
「それより何用なんだ?」
「ワイズ・スカイフレンの監視は怠っていないかの確認だ」
「キサマに言われるまでも無い」
秋草が怒鳴る
「おーこえぇ。まぁ見張るだけの任務だ。お前にだって完遂できるだろうがな」
からかうように言う
「なら通信などするな!」
ピッ
ブレスレットの通信機能を切る
「...」
体育座りで座りこむ秋草
「すまないワイズ...」
先程のワイズの「ありがとう」と言った時の顔が頭に浮かぶ
「だが...私は...」
顔を埋めて秋草は小声で泣いた


第10話「計画と暗躍」後編 終