第10話「計画と暗躍」 中編


後を振り返ると
「ワイズさん.....」
涙を目に貯めたルミナが居た
「え...あの...その」
今まで無いシチュエーションに戸惑いまくるワイズ
「(やばい...ど、どうしたらいいんだ...)」
と言葉が見つからない
ワイズは元々赤面症で女の子(一部例外有り)と滅多に話したことがなかった。そんな彼がこのようなシュチュエーションに置かれたら、女の子に慣れてきたといって何もできないのも、しかたが無いかもしれない(かと言って許されることじゃないが)
そのままワイズが言葉に詰まっていると
「よかった。すっかり無視されたのかと思いました」
と、涙を拭きながら言葉を出すルミナ
「いや無視だなんてそんな!ただ考え事してて気付かなくて...ごめんね」
頭を深々と下げるワイズ。どうやら両者共だいぶ落ち着いたようだ
「いえいえ!そんな、謝らないでください!」
手を横に振り首を横に振り謝り返す
「そ、そう?」
と聞き返すワイズ
「ええ!」
にっこりと笑うルミナ
「ありがとう」
と笑い返すワイズ。すると
ボッ
「(はわわわわわ!)」
ルミナが、真っ赤になる
「どうしたの!?急に熱でも出た?」
驚いて顔を覗きこんでおでこに手を当てようとするワイズ
「(!)ち、ちがいます!大丈夫です!なんとも無いです!」
と、両目を強くつぶって、両手をぶんぶんと凄いスピードで振り動かして否定する
「な、ならいいですど」
なんとか全力で否定するルミナを見て
「(かわいいな)」
と思う(みんなが恐くて口が裂けても言えないが)
「そういえば何か用事でもあったんじゃないですか?」
普通に聞くワイズ
「あ!」
ぴたっと停まるルミナ
「えっと...その.....何を考えていたんですか?」
奥に何かつまった言い方。本来聞きたいことでは無いようだ
「どうでもいいことだよ(どうでも良く無い気もするけど)。そういうのってさ、やたら気になったりしない?」
ワイズはルミナのそれに気付かずに、質問に答える
「あーありますねそれ!」
同意するかのように返事をする
「うん、それで考えこんじゃってね」苦笑いする
「そうだったんですか...」
歯切れの悪い声
「?...どしたの?」
思わず声をかける
「いえ!なんでも無いです!」
明るく返す
「そう?」
心配そうな顔をする
「ええ、あ、それよりワイズさん用事があったんじゃないですか?」
と言われ
「あ!やべぇ!!そうだった。ゴメンちょっと行くね」
と言うと走り出そうとする。すると
クイッ
ワイズの服ををルミナが無言で引っ張る
「?」
疑問の顔で振り返る
「あ...やっぱり...いいです...」
と、手を放す
「じゃ、じゃあ行くよ」
少し戸惑いつつも
「また後でね!」
手を振りながら走りだすワイズ
「はい、また後で」
笑顔で手を振り返すルミナ
そしてワイズが見えなくなったころに
「誰の...誰の部屋に行くんですか?」
と悲しそうな顔で問い掛けた


<冬花の部屋前>
「...えーと」
ワイズ君どうしたらいいか解らないの図
「とりあえずインターホンを...」
押そうとすると
パシュッ
っとドアが開く
「あ」
驚きのせいか、間抜けた声のワイズ
「お待ちしてましたわワイズさま!」
玄関に立つ冬花が、深々とお辞儀をする
「ごめんね来るの遅くなって」
と返す
「いえいえ!さ、お上がりになって」
手を動かして促す
「え...あ、はい」
カタログを貰ったら帰ろうと考えていたのか少し言葉が迷う
「お邪魔しま〜す」
靴を脱いでそれをそろえてから部屋に上がる
「はい、お邪魔されます」
と笑ってリビングへ通す
「カタログはテーブルに置いてありますから、ソファに掛けて少し読んでいかれたら?」
と冬花
「...じゃあそうさせてもらいます」
と、少し考えてから、カタログを手に取ってソファに座るワイズ
「それでは私は飲み物でも取って参りますわね」
とキッチンに向かう
「あ、おかまいなくー」
既に居ない冬花。そしてワイズはハタと周りを見渡す
「(俺の部屋と作りが違うな...まさかそこまでフォローしてくれるのかここの研究基地は...)」
おそらく候補生の負担を極限にまで緩和するためなのだろう
「(あんまり人の部屋を見るのは良くないよな)」
と思い目をカタログに落とす
「(...でも...なんでこんなに服が散乱してるんだろう)」
冬花の部屋のリビングにはいろんな服が散乱していた
「お待たせしましたワイズさま」
銀色のトレーにコーヒーを乗せて冬花が現れる
「(そして...)」
頬杖をしながらキッチンから戻った冬花を見る
「冬花さんはなんでドレスを着ているんですか?」
聞いてみる
「衣裳合わせをしていましたの。クリスマスパーティ用のね」
かがんでコーヒーの一つををテーブルのワイズ近くに置く
「なるほど」
一人納得するワイズ
「それでどうです?このドレス。似合いますか?」
くるっと一回転して、しおらしいポーズをしてみる
「似合いますが...」
カタログに指を挟んで、読んでいたページを解らなくしないようにしながら言葉を続ける
「もう少し抑え目の服にしたらどうですか?舞踏会じゃないんですから」
冬花の着ているドレスは、ワイズの言うとうりまるでどこかの舞踏会に出るかのような、胸元の開いたドレスだった
「あら、私にとってパーティは舞踏会となんら変わり無いものなんですわよ?」
人差し指を振って言う
「そんなもんですか」
コーヒーを口にもって行き少し飲む
「!...」
苦かったのか角砂糖を一つ入れて、スプーンで掻き混ぜるワイズ
「でもワイズさまがそう言うのなら、このドレスは止めておきますわ」
そのワイズを見て、クスクス笑いながら言う冬花
「そ、そうだ!聞きたいことがあったんです」
ごまかし切れてないごまかしをしながら話を変えるワイズ
「なんでしょう?」
笑顔のまま聞き返す
「なんで急に俺にさま付けで呼ぶんですか?」
さっき思った疑問を聞いてみる
「なんとなく、ですわー」
また笑顔のまま返す
「そ、そうですか」
カタログに目を落とす
「で、何か良いクリスマスプレゼントありました?」
座ってワイズの肩越にカタログを覗き込む冬花
「まだ全部見てでないからどうともいえませんね」
冬花が新に話掛ける
「はい?」
冬花の顔を見て普通に答えるワイズ
「もちろん私貰えますよね?クリスマスプレゼント!」
にっこりと聞く
「ええ。カタログのお礼もかねてね」
いたって普通の笑顔で返す
「カタログの御礼として...ですか」
下に俯いて哀しそうな顔をする
「え!あ、ご、ごめんなさい!俺何か悪いこと言っちゃいましたか?」
冬花の表情を見て、立ちあがって急いで謝る
「.....相変わらず鈍感ですのね」
小声で言い、子悪魔風な笑いをする。その表情はワイズには見えなく、声も届いていない
「ど、どうすりゃいいんだ...」
一人あたふたするワイズパート2(情けない)
「じゃあキスしてくれたら許しますわ」
俯いたままで言う
「キスすれば...ってええッ!?」
顔を真っ赤にして後ろに飛びのく。そして
ツルッ
フローリングの何もにところで
ドテッ
こける
「あたた...」
変なこけかたをして後頭部を打ったらしい
「プッ」
冬花がこらえて笑う
「笑わなくても」
頭を摩りながらバツの悪い顔をするワイズ
「だあってそんなに焦るから」
ワイズがこけた時に落としたカタログを拾い上げて、駆け寄る
「はい、どうぞ」
カタログを手渡す
「はい、どうも」
受け取る
すると不意に冬花が顔を近付ける
「!!」
当然驚く彼
「それとも...私とはキスするのは嫌でしたか?」
顔と顔の間3cmぐらいでワイズに向けていたいままで最高の笑顔をする冬花
「いやっ...その...そうじゃなくて...えと」
真っ赤どころでなく今にも爆発しそうに赤いワイズである
「フフッ」
冬花は自分の指に口づけて、さらにその指をワイズの唇に付けようとする
「あ!そうだ!」
急に立ち上がり、冬花の指を回避する形になる
「どうなさったんですの?」
見上げる冬花
「用事があったんでした!急ぐのでこれで!」
冬花の顔を見ずに言い。回れ右!をしてから走って
パシュッ
出ていくワイズ
「...この指...どうしましょう」
困った顔で自分の指を見る冬花は、どこか楽しげだった


<階段付近>
階段付近にコンマ数秒で着いたワイズは
「ハァ...ヒィ...」
壁に手をつき肩で息をする程にドキドキしていた
「あーーー...びびった...」
背中を壁に付けてズルズルと背を落としながらとあぐらを組む
「そんな所に居たら人の邪魔になるぞ」
そっけない声が上から聞こえてくる
「ッ!...秋草さんでしたか」
ビクッとした後見上げると秋草が上の階から降りて来ていた
「何をビクついている?」
ワイズの横まで降りてくると、そう聞いてくる
「いや、冬花さんかと...アハハ」
良く考えれば解ることに苦笑いするワイズ。「アハハ」の部分だけそのせいでやたら声のトーンが低い
「その分だと、冬花と何かあったな?」
腕を組んで言う
「あったような...なかったような」
あやふやにしか答えられない
「?ハッキリしない奴だな」
半ば呆れた顔して言う
「ハッキリしない奴で悪るうござんした〜」
立ち上がりながら冗談げに答える
「何だその返答は...ん?それは何だ?」
半分怒りながらもワイズの持つカタログに目をやる
「これ?えーと...」
説明するべきか否か悩む。何故ならみんなに言い降らされると、多分と言うか十中八区男子達に何かを言われるかを解るからだ
「(まぁ秋草さんはみんなに言ったりしないか)」
以外に結論は簡単に出る
「クリスマスプレゼントのカタログですよ」
と笑いかける
「何故貴様がそんな物を」
怪訝な目で言う
「何故って...プレゼントをするからですよ?」
「誰にだ?」
「それは...」
不思議に思い、言い止まる
「...なんでそんなこと聞くんですか?」
思ったことを言う
「気になったからだ」
顔色一つ変えないで言う秋草
「...」
こう答えられるとどう返したらいいか解らない(そして例によって焦る)
「...すまない。聞いてはいけないことだったようだな」
頭を下げて謝る
「いや!そうじゃ無いけど!ってそうでも無く無いんだけど」
またもやあたふたするワイズ
「と、とにかく頭を上げてください秋草さん」
秋草はまだ頭を下げたままだった
「わかった」
やっと頭を上げてくれる
「ふぅ...」
思わずタメ息が出る
「最近タメ息ばかりしていないか?貴様」
最近とはクリスマスパーティの準備が始まったころである
「ハハ...そうかも」
背中を丸める
「にしても最近良く会いますね」
「そうだな」
「しかもたいてい俺がタメ息している時に」
ワイズの言う通り最近秋草は良く彼の前に現れる。おそらく毎日と言っても良いだろう。しかもいつもタメ息をしている時や何かとちった時だ
「(カッコつけたい訳じゃないけど、我ながら情けないよなぁ...)...ハァ」
などとまたタメ息が出る
「貴様最近体を動かしているか?」
秋草がまた腕組をする
「細かな作業しかしてませんよ」
ドライバーを動かすふりをしながら言う
「そうか...なら少し付き合え」
と言って階段を下り始める
「へ?」
なんのことだかさっぱり、と言う表情のワイズ
「いいからついてこい!!」
秋草が振り返ってから大きな声で言い放つ
「は、はい!」
驚き、階段から足を一段踏み外しながらも、秋草の後に続いた


<数分後、体術訓練場>
キンッ!キィンッ!ギィンッ!
まるで柔道場のように畳の敷き詰められた体術訓練場に、金属のぶつかる音が響く
「くっ」
手を伝う衝撃が腕の神経をマヒさせるように痺れる
「...スゥー」
それを抑えるかのように息を静かに吸うワイズ。そして、刀<蒼空(ソウクウ)>を握り直して、一度開いた間合いを積めるように駆け出す
「シッ!」
駆け出したワイズに何かを投げ付ける秋草
「!」
キンッ!カキンッ!ギンッ!
それを迷わず<蒼空>で斬り払う。その動作によって地面に落ちた物体を見てワイズは思わず驚く
「(棒手裏剣!?)」
棒の形をした手裏剣。それが秋草の手から放たれた物だった
タンッ
と畳を跳ぶ音が聞こえる
「!?」
ワイズが秋草がいた所を見ると既に彼女は居なく、ワイズの懐まで来ていた。左手に逆手持ちした短い目の刀と共に
「速ッ!」
「遅い!」
二人が言葉を出した瞬間にまた、金属のぶつかる音が響いた

第10話 「計画と暗躍」 中編 終