第10話「計画と暗躍」 前編



「ワイズ候補生、出頭しました」
ある部屋の前に立ったワイズがそう言うと
「どうぞ入って」
と中からミシェーの声が聞こえてくる
「失礼します」
パシュッとドアが開き、中に入る
「ちょっと待ってて、今通信してて」
とミシェー。見ると少し影になっているモニターに見慣れない女性が映っている
「(通信の相手かな?)」
とワイズ
「何、気になるの?」
とミシェーが顔を近づけながら言う
「彼女は私の先輩兼親友ね」
「へー、そうですか...ってそうじゃ無くて用事は?呼び出したのは教官じゃないですか」
彼はミシェーのプライベートルームに呼び出されて来たのだ
「そうでした。少しヤバ目の話だから呼び出ししたんでした。にしたって出頭はちょっと気にさわったよ」
ようは自室なら話が外に漏れないから、である
「すいません...ってヤバ目の話って?」
そう聞くと思わず少し後ろに引く
「こないだの戦い、あの時アウト・サイダーに何が起こったのか...簡単に言ってしまえばあるシステムが勝手に作動したのよ」
椅子に座り真剣な目で言う
「あるシステムって?」
ミシェーの正面にあるイスに座り、聞く
「G・B(ガイスト・バースト)...上に取り次いで聞けたのはこのシステム名とブラック・ボックスことだけ」
少し申しわけない顔で言う
「ブラック・ボックス?」
先程から疑問府のワイズ
「アウト・サイダーの機体各所に確認されたの。それも複数。特に頭部と背部のプロトタイプ・マインド・ブースターにあるのは、まったくもって解析不能」
お手上げのポーズ
「他のブラック・ボックスは?それも解析不能?」
「解析はできると聞いたわ。でもかなり時間がかかるとか。それもここにある設備では無理らしいし」
「なんか無茶苦茶な機体だったんすね...アウトって」
苦笑いのワイズ
「整備の人達...クイマ達は知ってたんですか?」
「アウト・サイダーの原型になったあのテムジンに既に隠されていたらしいわ。G・Bはね。だからクイマ君彼のせいじゃ...」
「クイマ達を責めるつもりは無いですよ」
と笑うワイズ
「そうなの、ならよかったけど...」
そして考え込むミシェー
「まだ何か?」
「問題はいくつもあるわ...G・Bの制御方法も解らないし...ブラックボックスも謎のまま...それでもあなたはアレに乗れる?」
「...」
軽く下を向くワイズ
「あの時言ってたけど...正直、今回の件で考えが変わざる終えないでしょうし...」
「心配ありがとうございます」
立ち上がるワイズ
「でも、俺は乗ります」
「どうして?」
「理由はよく説明できませんが...多分今アウトに乗れるのは俺だけでしょう?」
「あなた用にカスタマイズが進んでいるからね...(でも理由はそれだけでもないみたいだけど)」
「上の人達が何を企らんでいるか...それはミシェー教官に任せます。俺は出来ることをやります」
部屋の出口に立つワイズ
「それで本当にいいの?」
「まぁ、できるとこまで!...ですが。それでは通信の続きをどうぞ。俺は退室します」
パシュッと、ドアが開く
「失礼しました」
と、軽く会釈をして部屋を去る

少しの間

「ふぅッ」
思わず息が漏れるミシェー
「大変そうですね」
通信の相手が話を切りだす
「彼...どう思う?」
「勘はよさそうですね...けれど、なにか無理しているように見えますよね」
「鋭い!...やっぱり気にしているのかな...こないだの」
天井を仰ぐ
「せめて何か楽しいことでもして忘れれるといいんですけどね」
通信の相手も難しい顔をしているようだ 「それだ!さすが詩依花!!」
笑顔で相手に指をさす
「え?え?え??私何か言いました?」
急に言われて凄く驚いた顔の親友だった



数時間後、廊下の販売機前
「パーティ?」
缶を口から離しながらイースが言ったことを聞いていた
「お前のとこの教官が所長に行ったそうだ...」
コーヒー缶を販売機から取り出しながら言い続ける
「...なんでも今の空気を換えるために、パーティを企画したいらしい」
缶の口を開ける
「キリキリしてるからなぁ...今のここは」
カンッ
と飲み干した缶をゴミ箱に投げ入れる
「お前が...」
「ん?」
「お前が一番キツそうに見える...」
缶を手で潰す
「...そうかい?」
すっ惚けた顔をするワイズ
「ああ...」イースが缶投げたコーヒー缶が
ガンッ
とゴミ箱の角に当あたり床に落ちる
「...」
「...」

またすこしの間

「12月中だからクリスマス・パーティになるかもな...」
イースがまた話す
「それが?」
「...プレゼントでも用意しておけ」
缶を入れ直しながら言う
「何故?」
「...用意すれば解る」
と言うと歩き去って行く
「...俺の勘は変に当たるから」
「お、おう」


イースの姿が見えなくなったころ
「ハンガー行くか」と歩き出すワイズ



ワイズが交差通路にさしかかると、横の通路から話し声が聞こえてくる
「はい...わかりました」
「(秋草さん?)」
聞いた声から推測する
「こんちは秋草さん!」
と声をかける。横を過通りするのもなんだから、とでも思ったのだろう
「!?」
急に声をかけられたためか凄く驚き、ゆっくりこちらを見る秋草
「な...なんだワイズか、驚かすな」
と切り替える秋草
「ごめんごめんってあれ?誰かと話ししてたんじゃ?返事をしていたように見えたけど」
とワイズ
「何を言っている?私はずっと一人で居たぞ?」
と言った秋草は、急に悲しそうな顔になる
「何かあったの?」
秋草の気持ちを察したのか心配そうな顔をするワイズ
「い、いや無んでも無い」
正面を向いて手を大袈裟に振りながら否定する。何故か頬を若干赤らめながら
「そうかい?ならいいけど...ところで一つ聞いていい?」
「な、なんだ?」
「なんで秋草さんは男言葉使いなんだ?女の子なのに...ってクイマが」
ズルッ
と、こけかける秋草
「そ、そんなことか...ってどうでもいいだろ言葉使いぐらい!」
と少し怒る
「お、俺じゃなくて」
焦るワイズ
「す、すまんついカッと」 と弁解
「いえ、じゃあ俺行きますね(クイマの野郎ー)元気だしてね、秋草さん」
歩いていくワイズ
「あ...ああ」
軽く手を振る秋草


ワイズが見え無くなったころ
「やり切れない...よ」
背中を壁に投げ掛け、言葉を漏らす秋草



<数日後研究基地地下VRハンガー>
「ワイズ企画長〜!ここの機材の材料はどこにあるんすか〜?」
普段VRの整備をしているスタッフが紙を挟んだボードを手に振りながらワイズにいつもと違う声をかけている
「普通に呼んでくださいってば!!」
今日何度目かの同じ言葉を呼び掛けた相手に言いながら近づく
「あーこれはクイマに聞いてください、あいつの担当ですから」
ボードの紙に目を落としながら指示を出す
「りょーかい企画長」
と言って走っていくスタッフ
「ッ!だから!!」
突っ込もうとするとスタッフの姿は無く
「ふぃ...」
疲れからタメ息がでる


<数日後の数日前のミシェーの部屋>
「くりすますぱ〜てぃ!?」
またミシェーの部屋に呼ばれたワイズはすっとんきょうな声を上げていた
「そ!あなた達の歓迎会もしなかったし、そろそろここにも慣れただろうから気晴らしにね」
慣れたらパーティをする意味は解らないが、笑顔でミシェーは言う
「(イースの勘、当たったな)...所長からOKとれたんですか?」
露骨に嫌そうな顔をして聞くワイズ
「それが以外にも一発でOKしてくれたのよね。あの所長が!」
最後の部分だけ力をこめて言う。ゴウスト所長を嫌っているのが少なからず解る
「で?」
まだ嫌そうな顔で言う
「それを言うだけで呼び出した訳ないですよね?」
「ははー...バレた?」
ミシェーの笑顔が若干崩れる
「前に職員室に呼ばれた時を思いだしましたから...」
下を見る。頭には大粒の汗。学校の時にも同じことがあったようだ
「じゃあ...頼まれてくれる?」
手を合わせてミシェーが片目をつぶる
「今回は何をすればいいんですか...企画?資材調達?司会?隠し芸だけは勘弁してくださいよ」
ミシェーの机に顎を乗せて投げやりに言う
「隠し芸以外の全部」
真顔で言う
「はぁ!?」
思わず眉間とこめかみに力が入る
「ってのは冗談半分」
と笑顔にもどる
「はぁ...冗談スか...って半分!?」
目の前に縦線が入る勢いで聞き返す
「まとめ役を頼みたいのよ」


<んで数日後の今>
「まとめ役っつったってなぁ...用はなんでも屋かい」
ブツブツ文句をいいながら手を休めずに作業する
「ワイズやーい」
ゼロが後ろの方から走って来る
「なんだー?」
背中を反りながら問い返す
「ってうわ...顔色悪いぞ大丈夫か」
思わず後退りする
「寝不足...&疲労」
元の体勢に戻ってまた手を作業に戻す
「大変だな」
横に立って言う
「立案はミシェー先生なのに全部任されたから...」
頭を下に向けてタメ息
「手伝ってくれてる人が多いからまだいいけど。で何した?」
「看板制作終わったからこっち手伝おうかってな」
ゼロはワイズからパーティの時に飾る看板を任されていて、それが完成して暇になったから来たようだ
「じゃあそこの配線繋いでくれ...ここにマニュアルあるからよ」
「わかった、ワイズは少し休んどけ」
マニュアルを拾い上げながら言う
「悪い、そうさせてもらう」
立ち上がり歩きだそうとすると
ピピピッピピピッ
首から数個下げていた小形通信機の一つからから音がなる
「どれだ...」
鳴っている小形通信機を焦りながら探す
「これか」
スイッチを押して耳に近づける
「はいワイズです...普通に呼んでくださいってば。...はい...それは夏樹さんに聞いてください。はい、お願いします」
というと耳から小形通信機を離す
「今度は何て呼ばれたんだよ?」
ゼロから聞かれる
「宴会部長...」
「はは!それでいくつ目だよ?」
いくつ目とは、何と呼ばれたか、である
「さん、君、候補生、作戦司令、隊長、リーダー、馬鹿野郎、社長、会長、黒幕.....企画長、宴会部長」
虚な目で思い出しながら言う
「少し間があったな」
疑問を投げ掛ける
「多過ぎて忘れた」
顔に縦線
「いろんな肩書つきそうだな」
笑いながら言う
「肩書いらんから普通に呼んで欲しい...」
かっくんと首を傾ける
「さっきの大丈夫かって質問に答えつけたし」
「なんだ?」
「寝不足&疲労&...ストレス」
苦しそうな顔をして言う
「御愁傷様」
と笑らいながら手を動かす
「ういぃ...」
気の無い返事をしてのろのろと歩き始める
「仮眠とっとけよ〜」
ゼロが手を振る
「...」
無言で手を振り返すワイズ



研究地基地下VRハンガーを出てー通路の自販機横のベンチを目指して歩いていると
タラララーララララー(携帯着信)
と携帯電話がなる(着信音は天○観測)
「!」
ズボンに複数あるポケットを探る
「あった」
ズボンふともも辺りにあるポケットに携帯電話の感触を見つける
カチッっと折り畳んであった携帯を開き、画面を見る
「冬花さん?」
確認すると通話キーを押し、耳に当てる
「はいワイズです」
「遅いですわよワイズさま?」
少し怒った声の冬花
「すいません、携帯どこに入れてたか忘れちゃってて、振動(バイブ)も切ってたし」
焦りながら急いで謝り、言い訳をする
「まぁ今回は許しますわ、それよりも例のカタログ届きましたわよ」
謝りの言葉を聞くと、直ぐにいつものワイズに対しての(猫撫で)声に代わる
「あ!わざわざ連絡ありがとうございます」
誰も目の前に居ないのに思わず頭を下げる
「それでどうしましょうか?私がワイズさまに届けます?」
と訪ねて来る
「いえ、俺が頼んだんですから俺から受取りに行きますよ。今どこに居ます?」
壁に背中をつけて訪ね返す
「自室ですけれども?」
「じゃあ部屋に受取りに行っていいですか?」
「えっ?...」
ドキッっとしたのか変な声を出してから黙り込む冬花
「まずいですか?」
やばいこと言ったかなと不安になる
「いえいえ!そうじゃなくて...いきなりでしたから、全然問題無いですわ」
焦って返事をする。声が何かいつもより更に明るい
「じゃあ今から向かいますね」
ホッとして言う
「はい!お待ちしておりますわ!」
声は明るいまま
「では、後程に」
と電話を切る
「ふぃ...」
深い為息
「休憩返上だな」
また首をかっくんとする
「そういや...」
ハタと
「冬花さん...俺のことさま付けて呼んでたっけか?」
思い出してみる
「ワイズさん」
誰か女の子の声
「うーん?」
手を顎にあてて深く唸る。声の主には気付かない
「ワイズさんっ!」
声が大きく呼び掛ける
「うーむ...」
まだ気付かない
「ワイズさんてば!」
涙混じりになる大声
「は、はい!?」
びくっと振り返る

第10話「計画と暗躍」 前編 終