This Moon My Honey Bunny


「どうです?」
そう言ってクレスセント=001Sがゆっくりと一回転する
「…まぁ…いいだろ」
それをコンタクトを入れた横目で見てなるべく平静を保ちながら返答するオレ
今の彼女の姿は黒いレイキャシールのようだが彼女の皮膚は人のそれと変わらない為かどうも直視しずらい
いや、彼女と言う存在自体がオレには…
…こんなんでオレは大丈夫なのだろうか?
クレスセント=001S同棲することになったっつうのに



5日前
あの後、つまりクレスセント=001Sが目覚めてオレの事を『マスター』と呼んだ後
結構面倒だった
何とか坑道から帰ってこられたのは良かった
だが



「で…だ」
武器が散らばる以外整頓されたオレの部屋に本来有り得ない存在が礼儀正しく起立して居る
「何です?マスター」
その存在が何でかオレをマスターと呼ぶ
「クレスセント=001S、オレは君のマスターじゃ無い」
私服に着替えたオレは、青いコンタクトレンズをはめてからサングラスを付ける
「貴方は私を目覚めさせてくれました、だから私のマスターです」
平然とそう言い放つクレスセント=001S
「鳥のすりこみか」
ソファに座りながら悪までクレスセント=001Sの姿勢を否定する
「男物の服で悪いが二、三着勝手に選べ」
オレはそう言いながらクローゼットを指差す
「何故です?」
変わらず礼儀正しく起立したままクレスセント=001Sが聞き返す
「その服装じゃ出て行かせずらい」
クレスセント=001Sの今着ている…カプセルから出た服装は機能的ではあったが身体のラインが見えすぎる物だった
「…私を追い出すのですか?」
若干のタイムラグと若干の表情の陰り、そして質問するクレスセント=001S
「理解力が高くて助かる」
右膝に頬杖を付きながら言葉を吐く
「ここはオレの家だ、そしてお前はいいとこ客人、客人を招き入れるのも追い出すのもオレの勝手だろ」
サングラスの奥から睨み付けながら言う
「私は貴方の所有物…」
「所有物だと言うなのなら」
クレスセント=001Sの言葉を潰してオレは強く言葉を続ける
「所有物だと言うのなら、捨てられる事に口出しするな」
ただひたすらに冷たく
「…」
それをただ聞き続けるクレスセント=001S
「面倒臭いんだよ、お前の存在が」
そのクレスセント=001Sに追い撃ちを叩き付けるように言葉を吐き出す
「…解りましたマスター」
クレスセント=001Sが搾り出した言葉は哀しみに似た感情を感じさせる
そして彼女は部屋のドアを開け出て行く
「…悪い」
オレが聞こえ無い位に小さく言った筈の言葉にクレスセント=001Sは足を止め
「いいえ、目覚めさせてくださって有難うございましたマスター」
悲しそうな笑顔でそう言いクレスセント=001Sは、今度こそ出て行った



「これでいい筈だ…」
オレはクレスセント=001Sが出て言った直後座っていたソファに寝転ぶ
「あいつはオレみたいな血に塗れた奴と居るべきじゃない」
あいつは純粋なんだ
造られたとか
目覚めたばかりとか
死者だったとか
そんなの関係無しに
「だからオレなんかと居ちゃいけない」
だけど
『私は貴方を護るために造られました。なんなりとご命令を、マスター』
なのに
『何です?マスター』
なんだってこうも
『…私を追い出すのですか?』
あいつの顔が
『私は貴方の所有物…』
クレスセント=001Sの事が
『いいえ、目覚めさせてくださって有難うございましたマスター』
頭を離れない!?
「だあ゛ーーー面倒クセェ!」 いつの間にかきつくつぶっていた目を大きく見開きながら早い速度で上半身を起こす
「あんな服装で出て行きやがって!!」
適当な言葉を吐き捨てクローゼットからロングコートと立て掛けていた刀を引っ掴んで足速に部屋を出た



ゲシュペンストの済む地区はパイオニア2でも1、2を争う治安の悪い所で、クレスセント=001Sはその片隅のスクラップ置場に向かっていた
「…」
クレスセント=001Sの表情は暗く、歩く足には足枷が付いているように重かった
そのクレスセント=001Sを獲物の様に見る幾人かの影
「クレスセント=001S!」
「…マスター?」
息をゼィゼィと切らしながらゲシュペンストが叫ぶ
「まさかこんな所に来てたとは…」
そう言いながらゆっくりとクレスセント=001Sに近づくゲシュペンスト
「私を壊すのですか?」
ゲシュペンストの握る刀を見てそう聞くクレスセント=001S
「阿呆、壊す気も殺す気も無い」
そうぶっきらぼうに言ってロングコートをクレスセント=001Sに軽く投げてやるゲシュペンスト
「これは?」
それを両手で受け取ったクレスセント=001Sが疑問譜を投げ返す
「さっさと着ろ」
そう言って刀を右逆手で抜いて構えるゲシュペンスト
「?」
言われた通りロングコートを着るクレスセント=001S
その直後先程の影達が手に物騒な物を携え姿を現す
「マスター!」
クレスセント=001Sがゲシュペンストを護らんと前に出ようとするが
「狙われてるのはお前だ」
その行動を刀の鞘を逆手てで握った左手で止める
「お前はオレを護ると言ったな?」
クレスセント=001Sに背後を向けたままゲシュペンストが聞く
「…はい」
少し遅く、しかしハッキリと返事をするクレスセント=001S
「ならオレはお前を護る」
そうゲシュペンストはクレスセント=001Sに聞こえるように言って影達をサングラス上から睨んだ



「ところでマスター」
黒いレイキャシールの姿でクレスセント=001Sが話し掛けて来る
「何だよ」
平静平静、つかあれから数日計画してんだから慣れろオレ
「5日前の14時34分55秒、結局何故私を捨てなかったのです?」
何で5日経過した今それを聞くかねこの娘は
「…オレの物をオレが捨てるのを止めた、そんだけだ」
オレはソファに寝転びながらやけくそ気味にそう言った
「そうなんですか?」
それをクレスセント=001Sは綺麗な声で聞き返す
「そうなんです!ああ、あとお前の名前クレスセント=001Sって長いからこれからは月って呼ぶ」
オレはクレスセント=001Sを勝手に月と命名して目を閉じた
「了解しました、マスター」
心なしか、月の声が嬉しそうに聞こえた