Story13 体育館 確認


 

放課後
体育館


「めぇん!」
賢士の放った素早い面打ちが相手の剣道部員にクリーンヒットし
「一本!」
審判がすかさず賢士の勝利を旗を上げて告げる


「ふうぃ…」
俺は正座で防具の面を外して息を出す
「先輩」
先程審判をした一年後輩の部員が話し掛けて来る
「退部したのに何で腕上がってるんですか?前より動きいいじゃないですか」
俺は暫く前まで剣道部に所属していた
でもちょっと訳あって退部した
「部活を辞めてなんか訓練でもしてたんですか?」
後輩が興味しんしんで聞いて来る
「いや…違うけど」
動きが違うのは多分ワイズと同調したことが理由だと思う
彼と同調してからは自分の身体が軽く、上手く操れるようになった気がしてならない
「なんか『見える!』ってな感じでした…」
「俺は新人類か!」
思わずビシと突っ込む
俺の同体視力も確実に変化している
勿論良い方向に
「…部活復帰しないんすか?」
少し声を下げて聞いてくる後輩
「今日は特別で来たんだぜ?」
正直、俺は剣道が下手だ
今日は手伝いで来ただけでそのついでで試合をしただけ
「(ただ…それだけだ)」
PSOのお陰で少しはまともになれたが
「…駄目なんだよ」
「そうですか…」
俺の暗い返答に話し掛けてきた後輩は黙ってしまう
「って!お前が落ち込むところかよ!」
そんな後輩の首をふざけた表情で腕をまわして軽く絞める 「痛てて!痛いすよ先輩!」
俺が手を抜いてるのが解るのか笑いながら言う後輩

「(ったく…後輩にも迷惑かけて何してんだ俺は)」
つくづく自分が嫌になる
「先輩〜」
少し離れた位置の女子の後輩から呼ばれる
「なんだ〜?」
胡座に座り直しながら聞いてみる
「部長が試合したいそうです」
そういってその部員が指をさすとその先には準備万端で戦闘フィールドに立つ女子の部長
…カモンカモンって手招きしてるし
「全国ランキングINの束原部長と戦うんすか…?」
首を絞められていた後輩が少し引きながら言う
「やりますか」
その首を放して正座し直す
本気ですか!?先輩前ぼこぼこに」
されました
それも還付無きに
「…まぁやってみないとね、しかも御指名だし」
一瞬頭をぼこぼこにされた記憶が過ぎる
だがワイズと同調したことで束原先輩相手にどれだけ通用するか、それも気になっていた
「(さて…どれだけやれるか)」
面を付けて竹刀を掴んで立ち上がる俺
「先輩がんばれー!」
少ないが男女どちらからの後輩も応援をくれる
…多分大分束原先輩行きの応援だろうけどね
「両者、前へ!」
審判の声で前に出て、礼、そんきょ、抜刀、構えと一連の動きをこなす
「(さて!と)」
相手は全国ランキングに入る猛者、…って女の子に失礼か、ともかく俺より強いのは確か
「賢士」
束原先輩が俺に話し掛けるなんて珍しい
心なしか嬉しそうだし
「なんすか?」
「手を抜くな、全力で行く」
そう言うと束原先輩の表情が凛々しく代わる
…別に前の試合で手抜いた記憶無いんですけど
「ぜ、善処します」
ま、まあ
始め!
頑張ってみますか!


同時刻
理科準備室


「そういえばさ時乃」
回転椅子の背もたれに体重をかけながら姉さんが私を呼ぶ
「なあに?姉さん」
私は時菜姉さんに頼まれたプリントの整頓を続けたまま聞き返す
「私もあっちでワイズに会ったよ」
え!?
私は手に持っていたプリント全てを落とす程に驚きました
わわわわわ!
直ぐに我に帰った私は大急ぎでそのプリントをかき集めます
「凄い反応ね」
と姉さんは笑います
…そんなに笑わなくても
「でさ、ジノの言う通りワイズには賢士がシンクロしてるみたいね」
急に声のトーンを変える姉さん
「姉さんもそう思った?」

ここで姉さんが言うシンクロとはマグのことでは無くて、私達とPSOの世界の人達との同調現象の事です
姉が言うには何らかの影響でそうなってしまうと言うのですが
…化学者としてその推測はどうなんでしょう?
「今、私を馬鹿にしなかった?」
「ぜ、全然!」
両拳を作って立ち上がる姉さんに右手を振って否定します
「…腑に落ちないけど」
そう言って回転椅子に座り直す姉さん
助かりました
「話を戻すけどとりあえずワイズの同調者は賢士ね」
「言い切っちゃっていいの?」
集め終えたプリントを姉さんのデスクに置いて、苦笑いしながら聞いてみる私
「時乃が先に行ったんじゃん、ワイズが賢士だって」
「そうだけど…」
私は見たから
賢士さんがワイズさんに変わる所を
「…姉さんがワイズさんを賢士さんだって思う所はなんなの?」
「え?私?」
腕を組んで考えるそぶりをする姉さん
「あのリアクションの仕方は賢士しか出来ないね!」
「断言、しちゃうんだ…」
またも…というかこれには苦笑いしか出ません
可愛い妹が見たって証言してて、私自身そんな気がするんだからそれでいいの」
…え〜と
「…何?照れてるの?今まで何回あんたのこと可愛いって言ったのよ私」
姉さんが何か嫌な笑みを見せます
「だって姉さん私もう高校生だよ?この歳で可愛いって…」
「ソレ、照れる理由になって無いし」
はうぅぅぅ
「さて可愛い妹いびりやめて賢士のとこに行こうかな」
姉さんは何かを挟んだバインダーを持って回転椅子から立ち上がりながら言いました
「賢士さんの所に?」
何故?
「こないだすっぽかされた潜りの約束の埋め合わせさせるのよ」
「?」


数分後
体育館から校舎への渡り廊下


「…いてて」
頭を抑えながら蛇口に手を乗せる胴着姿の賢士
「流石束原部長…打ち込みが半端無いは」
蛇口を捻り、水を出すとそこに頭を突っ込む
「つめて〜」
数秒して頭を水から出し、蛇口を閉める
「(前は束原部長相手に一本も取れなかったのにニ試合中に二本取れるようになってたな)」
でも結局負けている賢士
「(やっぱり俺の身体能力、良くなってる)」
窓の外の空模様を見ながら再度確認した自分の今の能力を喜んだ
「なぁにほおけてんの」
頭右横から鈍く刺さるような衝撃
づあ〜〜〜!!
しゃがんでうずくまる賢士の横に立つ衝撃の犯人は時菜
「先生!?ってバインダーの角は無いでしょ!?角は!!」
涙目で講義する賢士だが
「こないだの埋め合わせ決まったよ」
半ば無視で話を進める時菜
「こないだの埋め合わせ?」
疑問譜の賢士の脳天にニ度目の衝撃
〜〜〜〜〜!!
既に声になっていない賢士の叫び
「思い出したか?」
覗き込むように平然と声をかける時菜
「バ、バイオレンス教師…」
毒づく賢士に
あ?
バインダーを上段に構える時菜
はい!思い出しましたから!くっかりはっきり鮮明に!!
だからバインダーで叩くなとばかりに勢いよく立ち上がる賢士
「ほお…なら言うてみ?」
バインダーを自分の肩で軽く叩きながら言う時菜
「サー!こないだすっぽかしたオン(すっぽかした訳じゃないが)での潜りの埋め合わせであります!」
敬礼しながら姿勢を正し、はっきりと答える賢士
「まぁ…その回答で良いだろう」
そう言ってバインダーを賢士の前にだす時菜
「なんスか?チラシ?」
「見ろ」
言われてバインダーにあるチラシ(所々水付き)を覗き込む賢士
「掠れててよく読めないですよ」
「貴様が頭なんぞ濡らすからだ」
「先生がバインダーでどつかなきゃこうならなかったんでは…」
あぁ?
時菜の鋭く痛い視線
「スミマセンスミマセン…ってこれ俺ん家近くの土手で来週やる花火大会のチラシじゃないですか」
どこと無く見覚えがあるチラシだった
「それに私と時乃行くから」
と笑顔で言う時菜
「そうなんすか、これなら俺も行きますよ」
時菜の顔を見ながら答える賢士
「あんたがエスコートするように」
「はい………へ?」
一瞬固まる賢士
時乃〜〜〜!!よかったね〜〜〜!!賢士一緒に言ってくれるってさ〜〜〜!!
振り返って時菜が声を出す方向には遠目でも照れているのが解る時乃がいた
ういぃ!?
賢士はとことん理解し遅れていたのだった…