Story12 慟哭の森 


森エリア1

「血貯まりだらけだ…」 封印ノダチを右肩に担いだ常態で周囲に広がるエネミー撃破の証を見るワイズ
「…夥しい数ですね」
黄色い服のフォマール、アリシアが不安そうに言う
「俺達と同時並行で殲滅クエストが進行してる話、本当だったみたいだね」
「はい、でも私達がこの地に降りる為とはいえ…」
氷杖「ダゴン」を左手で握りしめるアリシア
「とにかく先を急ごうアリシアさん、貴方は貴方自身がしたいと思った事をした方がいい」
ワイズは先導するように森エリア2へのトランスポーター入り転送される
「…はい」
それに続く形でアリシアも森エリア2へトランスポーターに入った



森エリア2
「駄目だ、メインには繋がらない」
気象観測用端末のキーに触れながら言う俺
「ならローカルならどうです?」
アリシアさんがやや右後ろから気象観測用端末のディスプレイを見る
「待って下さい」
俺がキーに指を走らせローカルデータを表示させた時、後方から振動が来る
「!!」
直ぐさま反応して後方に意識を向ける
「ヒルデベア」
振動の主の名前を俺の記憶から呼び起こしオレが封印ノダチを構える
「ワイズさん」
アリシアさんが声をかけてくる
「出来るなら奴で生体データの確認を」
「はい、援護します」
アリシアさんの意志を確認し、俺は封印ノダチを両手で下段に構えてヒルデベアに向けて走る
ブホオ!
ヒルデベアが眼前にまで走った俺に拳を叩き込まんと右手を繰り出す
「当たったらヤバイな、それは!」
それを察知していた俺はジャンプで回避、空中で封印ノダチを大きく振り被る
だらあ!!
振り下ろした封印ノダチはヒルデベアを縦一線に切り裂く
「ワイズさんエネミーの反応が近付いています!」
アリシアさんが走って近付きながら言った瞬間ヒルデベアが三体飛び出て来る
「!」
アリシアさんが一瞬驚いた表情をした、が
ラバータ!
ハンターのフォースの表情でヒルデベア三体を凍結させる
「すげッ」
その情景を見ながらブレイパスを取り出す俺
「遅いよワイズ」
そう後ろからの声
「!?」
俺が振り向いた瞬間、三発のフォトン弾が通り過ぎて凍結したヒルデベア三体の頭を打ち抜く
「あと少し反応を上げなさい」
ジナ先生!?」「ジナ先輩!?
互いに同じ人を別の呼び方で呼んだ俺とアリシアさんは顔を見合わせる
「二人とも久しぶり」
ヒルデベアを打ち抜いたヴァリスタを右手の人差し指で回しながらレイマールのジナ先生が笑った



「なるほど先生はアリシアさんの研究所の先輩だったんですか」
談話しながら歩くワイズ、アリシア、ジナの三人
「そうなんですよ、ワイズさんにとっては先生なんですか?」
アリシアがワイズに聞くが
「ええまぁ…」
明後日を向いて言葉を濁すワイズ
「私はこいつの射撃の先生なのさ」
ワイズを細くした横目で見るジナ
「こいつってば昔は射撃がドのつく程下手でねぇ…」
つんつんとワイズの右肩を突く
「む、昔の話…ムグ!?
慌てて声を荒げるワイズだが間髪入れずジナがモノメイトを口に捩込む
「弾が狙った方向とは明後日の方向に行ったものよ」
そのワイズを思い出し、クッと吹き出すジナ
「そ、そうですか」
その様子を見て少し引いているアリシア
「ング…そいや先生はなんで地表に?」
モノメイトを飲み終えてワイズが聞く
「クエスト、御指名だったんだけどクライアントがムカつくから今しがた蹴ってやった」
インテリ眼鏡のブリッジを上げながら不機嫌そうに答える
「どんなクエストだったんですか?」
「殲滅のクエスト、地表エネミーのね」
先生一人で?
私は何者だ!
ジナがヴァリスタのグリップでワイズの脳天を叩く
ごぉ…
叩かれた部分を押さえながら悶絶するワイズ
「黒いヒューキャストと紺のヒューキャスト、金髪のハニュエールと私って面々だ」
「皆さん先輩のお知り合いだったんですか?」
「全然知らない奴ら」
ハッキリとそう言うジナにズルッとなるワイズ
「なんか紺のヒューキャストはいけ好かない奴だったね」
「なんでですか?」
「態度が悪い、黒いヒューキャストにいちゃもんつけたりもしてたな、それと…」
「それと?」
「何処と無くアンタに似てた」
そう言ってワイズを指さすジナ
「…遠回しに俺が嫌な奴と言ってません?」
ジナの指を怪訝な目で見ながら言う
指を引っ込めたジナが続ける
「違う違う、雰囲気とか別もの、ただ」
「ただ?」
「存在が似てる」
「………」
しばしあーでもないこーでもないとその場で考えるワイズ
そして出た結論を
「どう考えても嫌な奴と言われてる気がするのですが…」
ごっつう悲しそうな顔で言った
「気のせいだ」
そのワイズを見てまた吹き出すジナ
「うぅ…ってアリシアさんは?」
サッ周りを見渡すがアリシアの姿が無い
「ワイズあそこだ」
顎でアリシアの居る方向を示すジナ
「アリシアさん…とあれは?」
アリシアの陰に居るであろう生物を見る
「ヒルデベアの子供だな」
陰に居るのにも関わらず言い当てるジナ
「見えるんですか?」
ワイズにはあまり見えていないようだ
「合流する、行くぞ」
無視して走り出すジナ
「は〜いはい」
まるで時奈先生の操るPSOでのジナみたいだなと、賢士は思った



「先輩…ワイズさん…この子」
アリシアさんが凄く心配そうな声を向けて来る
「…酷い怪我だなこのヒルデベアの子供」
俺もヒルデベアを見る
「衰弱しているし栄養も取れていないようだな…」
ジナ先生はアリシアさんの横に立ってヒルデベアの身体を見る
「今のこの惑星の環境はこの子にはかわいそう…」
とアリシアさんが零した時だった
「!!」
「どうした?ワイズ」
二人より先に殺意を感じ取った俺は一人前に出て封印ノダチを両手で構える
「エネミーか」
ジナ先生も気付いたらしくヴァリスタを構える
「はい…」
俺がジナ先生に返事をするとエネミーが一体、ゆっくりと歩いて現れる
ヒル…デルト!?
名前が出てくる所を見るとやはり先生にもオレのように誰かが同調しているのだろうか?
「(それどころじゃないよな)」
思考を切り替える
「せん…ぱい…」
アリシアさんに俺達の緊張が伝染したのか、彼女の声が震えている
「アリシアさんはテクニックでジナ先生は銃で頼みます」
「お前はどうする?」
ジナ先生がしっかりとヒルデルトに狙いをつけて撃つが、腕で防御されて致命傷になってみたいだ
接近します!
俺はヒルデルトまで一気に走って左からの大振りで封印ノダチを使おうとする

!?
プロボクサーかと思ってしまう動きで左ジャブを繰り出すヒルデルト
「(ゲームじゃこんな動きは?!)」
しない、と俺の記憶から僅かながら霧か靄が消えるさなか、間髪無理矢理封印ノダチを盾のように構えて左ジャブを防ぐ
その間にもジナ先生の攻撃はヒルデルトに刺さるが全く効果が見られない
「!」
ヒルデルトが右腕を振り上げる
「(来る!?)」
ゲームでお得意の振りかぶりパンチを左ジャブを防いだ体制のままで受けるが
ぐぅ!?
ヒルデルト前から左方向後に吹っ飛ばされる
ワイズ!」「ワイズさん!
ジナ先生とアリシアさんが吹っ飛んだ俺を見て叫ぶ
「この!」
封印ノダチを地面に刺して止まり、直ぐさま構えをとるオレ
「!?」
瞬間その構えから何かをしようとして動きが止まる
「(なんだ?この距離でオレはノダチで何を…)」
ワイズ!
「!」
ジナ先生の声で俺の硬直は解ける
そして咄嗟に
くらえ!ノダチ車輪!!
封印ノダチを縦回転させるように投げた
「!?」
見事ヒルデルトの右手に命中、俺を睨む
ハアッ!!
そのコンマ数秒あるかないかの隙にジナ先生がヒルデルトの両目にフォトン弾をぶち込む
ブホア!?
流石に効いたか暴れながらたたらを踏む
「チャンス!」
友人から貰ったSソードのOUTSKYを取り出しながら走り
喰らえ!!
ジャンプして真上からOUTSKYをヒルデルトの口に刺し入れた



シティ
「では先輩、ワイズさん、がんばってください」
「アリシアもね」
「またいつか」
俺とジナ先生は去って行くアリシアさんに言葉を送る
アリシアさんは結局今回の件を個人で調べる事にしたそうだ
最後まであのヒルデベアの子供の事を気にしていたけど、大丈夫かな
「…ふぅ」
アリシアさんの後姿を見ていたジナ先生が溜息を吐き出す
「先生?」
雰囲気的に気になって声をかける俺
「いや…アリシアを見ていると妹を思い出してね」
妹?
…まさかね
って言うか
「妹さん居るんですか?初耳なんですけど」
「ああ、言わなかったし」
うん、確かにに聞いた覚えねぇや
数年師弟関係だが全く聞いた記憶が無い
…なんか悔しいぞ
「なんだ?気になるのか」
やばい
先生がなんか悪魔な表情してる
「貴様がどーしてもと言うなら紹介しないでもないぞ?ん?」
これは先生のからかいモードだ!
「謹んで逃げさせてください」
回れ右だ!逃げれ!
「まぁ待て賢士」
あてててて!髪!髪!
しっかりとマゲを掴んでやがるし!
って…え?
先生今なんて?
俺が振り返って問い質そうとした時、目の前が白く光った