Story1 森エリア1単独戦闘シングルモード


「くかー…」
物理の授業中に教室の後ろの方の席に、机に突っ伏して寝息を立てる生徒が約一名
「友空」
女性教師が教壇から授業を中断して声をかけるが
「にぎゃ…」
解らない言語で答えるその生徒
「起きないようだな」
そう口にして眼鏡を光らせながら両手それぞれに黒板消しを装着する女性教師
賢士!起きろ!ロックオンされてるぞ!
後ろの席の谷藤が起こそうと小声で声かけ、シャーペンで友空の背中をプスプスと刺すが
「いてぇな…」
と呻きながらも一行に起きる気配が無い
「3回目だ」
スーツの上に着た白衣を翻しながら教壇から賢士の机前に移動する女性教師
「谷藤、賢士の頭を上げろ」
絶対的な威圧感で命令する
は、はい!
席を蹴飛ばすように立ち上がってすぐさま賢士の顎と頭に手を添えて持ち上げる谷藤
「居眠りは2度目までは見逃すのが私の主義なのだよ、賢士君」
谷藤に頭を無理矢理上げられても起きない賢士に、赤い長髪が逆立つ程の気合いで言う女性教師
「せめて私、河峰時奈の手に掛かる事を誇りに思いなさい!!
大声でそんな訳解らない事を言いながら両腕を広げる
「ん…あ?」
流石に時奈の大声で目を覚ました賢士だが、時既に遅し
くーたばれえええええ!
シンバルを叩く用量で両黒板消しを賢士の両頬に激突させる
「いた…げほッごほッえほッ
痛いと言う前に黒板消しから出たちょうくの粉でむせる賢士
「目が覚めたなら廊下に立ってなさいこの阿呆
むせすぎて右目から涙を出す賢士に廊下を指して言う時奈
「は…えほッごほッ…い」
頭髪がちょうく粉で真っ白なまま返事をして廊下に出る賢士
「まったく…昨日オンに居なかったのに居眠りして…
教壇に立ちながら小声でごちる時奈
その頃賢士は、廊下でまた今度は立ったまま居眠りしていた
「スーげほッげはッげひッ
ちょうく粉でむせながら


遡る事賢士が光に飲まれた少し後、つまりは一日前

マ゛ァー…!
斬り捨てたブーマが倒れながら地面に溶ける
「ふうッ…一先ずはコイツで最後か」
手に握った封印ノダチを地面に突き刺して、額の汗を拭うワイズ

オレはあのあと総督から依頼を請けた
内容はPSOで請けるのと同じ『地表の調査』だった

「(次…か)」
ゲートに背中を付けて敵を伺い見るワイズ。握る封印ノダチの柄に力が篭る

地表に興味があったし何よりも船内は結構退屈だったからだ
いやまぁ何もする事がなかったとか言う訳じゃないんだけどね
それに俺がワイズと同調している理由、あの声の主、それが地表を調べる事で解る気がしたからだ
何か確証がある訳では無いのだが、そうとしか思えなかった
そして腑に落ちないことがある


地面が裂けて新たな敵が数体現れる

ジコブーマ!
敵の名前は頭に出て来る
オレが知らなくとも俺がPSOで幾度と無く戦っているからだ
だけど
(コイツの動きは!?攻撃は!?)
敵の動きや攻撃方法が思い出せないのだ
まるでその記憶の部分だけ霧がかったように
更に地表に降りたハンターズはまだ少なく、エネミー情報も極めて微量
この世界とPSOのエネミーでは動きが同じか、なんて知らない、だけど俺の記憶がはっきりしないのは確かだった
兎にも角にも情報が足りな過ぎる
なので
はあああああ!!
敵の動きを越える迅速な動きで倒す
いかに強力な攻撃でも放つ前に倒してしまえばそれで終わり
実際は毎回そう簡単に済むとも思えないのが俺なのだが


マ゛アー…!
あっという間にジコブーマ数体をを土へ帰し
「(他には?)」
封印ノダチを構え直して周りに気を張る
「(…)」
さわさわと微かに草木が揺れる音がする
「(風じゃ…)」
瞬間、右横の草村からサベージウルフが3体と左斜め前からバーベラスウルフが1体跳びかかってくる
無いよなッ!
ウルフ達からコンマ数秒遅れて敵が少ない方、バーベラスウルフに突撃を仕掛ける
ギャッ!
ワイズの全体重を乗せた封印ノダチがバーベラスウルフを口から横一線に裂く
ワイズの身体能力、反応速度はニューマンやアンドロイドに引けを取らない
寧ろ上を行くレベルだ
それは『鍛錬を積んだから』とだけでは言えない程に
「!!」
それを見たサベージウルフ達は警戒するように着地点から下がり、低く唸る
「…まんま狼だな」
サベージウルフのその行動を見て思い出したように言う
「さあ来るか?」
今度はサベージウルフ達を睨み付けて言った


こいつらが元々こんなだったかなんて今は解らない
もしかしたら本来大人しい動物達なのかもしれない
でも今は


「襲い来るなら倒す、(まだオレ達はやられる訳にはいかない!)」
封印ノダチをしっかりと構え直してサーベイジウルフ達と対峙するワイズ
「ウゥゥゥ…!」
低い唸り声が強くなったその時
ガウァ!
サーベイジウルフが3匹同時にワイズに襲いかかる
ラゾンデ!!
その動きとほぼ同時にワイズが左手を突き出してテクニックの名前を叫ぶと、髪に隠した右目が深い緑色から鮮やかな金色に変わり、強烈な蒼い雷が周囲を暴れ走る
ギャワンッ!
サーベイジウルフ達はその蒼いラゾンデを喰らって飛び掛かってきた方向とは逆方向に吹っ飛んで、地面に落ちて血に消えていく
そしてワイズ右目は既に元の深緑色に戻っていた
「…しっかし」
ラゾンデを放った場所に立ってワイズは思った
「(本星よりも、俺の世界よりも…)」
空、木々、地面、小川を見て封印ノダチを手にしたままどっかりと足を投げ出して地面に座って
「綺麗な所だなぁ…」
と溜息まじりに左目を閉じて言った
それはこの地表を羨ましいと言う心より、正直な感想だった
「マジで移住したいかも」
PSOをやっていた時冗談で言った言葉が自然に出る程に
キャアアア!
!?
いきなりの悲鳴
ワイズは声のした方に直ぐさま立ち上がって、封印ノダチを右肩に乗せて走り出した